ここ数年で多くの企業に取り入れられてきた電子署名ですが、紙の契約書から電子契約書に切り替えても本当に大丈夫なのか、複数ある電子署名の事業者のどれを選べばいいのか、慎重な人や企業ほどお悩みではないかと思います。
そこで、電子署名法の定める電子署名について、基礎的なことから、解釈の注意性まで深く記載するとともに、どのようにして電子署名の事業者を選択すればいいのかも記載しました。電子署名の導入を考えている法務担当の方は、ぜひ参考にしてください。


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目次
電子署名法とは【分かりやすく解説】
電子署名法とは、正式名称を「電子署名及び認証業務に関する法律」といいます。インターネットの発達により増加が見込まれた電子取引を円滑にする目的で、有効な電子署名の要件を定めるために制定されました。
この法律は2000年に成立していたのですが、当時は、契約当事者自身が証明書を取得する方式が想定され、準備と手続きが煩雑なために利用が進みませんでした。
しかし、クラウド技術の発展により、当事者ではなくサービス事業者が証明する形式での電子署名が発展します。
そして2020年7月と9月に、クラウド事業者が証明する場合の電子契約について、電子署名法の2条と3条の解釈が政府から発表されたことで、一気に電子署名の利用が増加しました。
参考:
総務省・法務省・経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」
総務省・法務省・経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A (電子署名法第3条関係) 」
このような電子署名について、詳しく説明します。
電子署名法2条の「電子署名の要件」とは
電子署名法の2条1項が、下記のように、電子署名の要件を定めています。
第2条
e-Gov「電子署名及び認証業務に関する法律」
この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
ここの条件を抜き出すと
- 電磁的記録に記録できる情報について行われるものであること
- 当該情報が当該措置を行った者が作成したことを示すためのものであること
- 当該情報について改変されていないことを確認できること
と整理できます。
この条件について、曖昧だと感じるかもしれませんが、それについては、別の章で説明します。
電子署名法3条の「推定効発生の要件」とは
電子署名法第3条は、「電子署名」がある文書の証明力が発生する場合の要件を、下記のように定めています。
第3条
e-Gov「電子署名及び認証業務に関する法律」
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
これは、電磁的記録について「本人だけが行うことができる電子署名がされている場合は、真正に成立したものと推定する」ということを定めています。
なお、「真正に成立」とは、作成した人の意思に基づいて作成されたもの、ということを意味し、「推定する」とは、そのようなことがあったと確信する、ということを意味します。
つまり、「この文書は署名した人が、その人の意思に基づいて作ったことが確かです」とお墨付きを与える、ということです。
電子署名法の新たに発表された内容
先にも記載したように電子署名法は2000年に制定されましたが、その当時には想定されていなかった(と思われる)、クラウドを利用して、第三者である事業者が署名の証明を行う方法が現れました。また、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が増えたこともあって「脱ハンコ」が進み、電子署名が注目されるようになりました。
しかし、このようなクラウドを利用する電子署名が電子署名法の定める電子署名に該当するかどうかについては、明確ではありませんでした。
そこで2020年7月17日、政府は、電子署名法2条の電子署名についてQ&Aを発表して、電子署名の定義を解説するとともに、第三者であるサービス提供事業者が証明するものであっても、条件を満たせば電子署名に該当することを明らかにしました。
参考:
経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法2条1項に関するQ&A)」
電子署名法を解釈する上での注意点
電子署名については2017年に政府のQ&Aが発表されたものの、そもそも電子署名がそれまであまり利用されてこなかったことや、電子署名の有効性が争われた判例が蓄積されていないこともあり、電子署名法の解釈が難しいものも多くあります。
解釈として問題になりそうな点をいくつか解説します。
電子署名の署名者特定機能
誤解が生じる可能性のある解釈として「電子署名法2条1項が、電子署名からその署名をした本人が誰かを特定する機能である署名者特定機能を要件としているか」ということが挙げられます。
こちらは、要件とされていないと考えられています。
それは法律の条文にも記載がないことが大きな理由です。
ですので、電子署名の要件としては、電子署名法2条に記載のある
- 電磁的記録(デジタル情報)について行われるものであること
- 当該情報が当該措置を行った者が作成したことを示すためのものであること
- 当該情報について改変されていないことを確認できること
であるといえます。
推定効の認定認証
次に「署名法3条が定める推定という効力を得るためには、同法の第3章以下に定める特定認証業者による認証が必要なのではないか」という点も誤解が生じやすいポイントです。
特定認証業者とは、電子署名に必要な電子証明書の発行等を行う業者で、一定の基準を満たすとして、主務大臣の認定を受けた業者のことをいいます。
これについては、電子署名を使う側が決めることであって、必ずしもこの特定認証業者による認証が必要ではない、と考えられています。
つまり、どの認証機関を利用するかは、ユーザーの自由であるということです。
署名者の身元確認
また、電子署名法3条に「本人だけが行うことができることとなるものに限る」と記載されていることから、「認証業者に署名者の身元確認をすることを要件としているのではないか」という誤解もされやすいです。
これについては、内閣府規制改革推進会議が、電子署名サービスの利用者と電子文書の作成名義人の身元確認は求めていないと明言しています。ただし、実際の裁判において第3条の推定という効力を得るには、署名した人の意思に基づいて電子署名がされたことが必要になるため、これを担保する手段の1つとして身元確認がされているとも説明しています。
電子署名法における電子署名とは
ここまでの説明をまとめますと、電子署名法における電子署名とは、
- 電磁的記録(デジタル情報)について行われるものであること
- 当該情報が当該措置を行った者が作成したことを示すためのものであること
- 当該情報について改変されていないことを確認できること
の3つの要件を満たすものといえます。
そして、電子署名法3条が定める成立の真正という効果を得るためには、さらにこの電子署名が
④必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができる電子署名であること
という要件を満たす必要があります。
電子署名のメリット
電子署名を導入するメリットについては、すでにご存じの方も多いかと思いますが、以下の点が挙げられます。
- 経費削減につながる
電子署名を利用しない場合には、紙に署名と捺印をしてもらうことになりますので、紙代や紙をやりとりする郵送代がかかります。
また、紙の契約書の場合、契約内容や金額によっては、数百円から数万円の印紙が必要になることもあります。電子署名であれば、紙代、郵送代、印紙代がかからないため、経費削減につながります。 - 業務フローの効率化につながる
紙の契約書の場合、印刷して、製本して、そこに捺印して、郵送し、捺印された契約書が戻ってくるか確認をして、戻ってきたものを補完する、という一連のフローがあり、手間と時間がかかります。
一方、電子署名の場合はインターネット上のやりとりで済むことが多く、またサービスによっては部署内でメール転送して決済が可能なものもあり、格段に業務フローが効率化されます。 - 改ざんされにくい
電子署名は、暗号鍵や電子証明書、タイプスタンプ等、改ざん防止の技術が使われています。
また、クラウドやサーバ上に保管するので、物理的に持ち出されたり紛失したりする可能性も低く、この点でも改ざんがされにくいといえます。
電子署名のデメリット
電子署名導入にはデメリットもあります。
- 契約相手に協力してもらう必要性がある
まず、契約当事者の双方が電子署名をすることに同意しないといけません。さらに、クラウド事業者が第三者として証明する形式の場合には、双方が同じ事業者のサービスを利用することになります。
会社によっては利用する電子署名サービスを指定していることもあるため、どのサービスを利用するかでもめるという可能性もゼロではありません。 - 社内の業務フローの変更が必要
電子署名は、紙の契約書の捺印とは全く違うフローになるため、社内の業務フローの変更が必要です。
特にメールで電子署名の文書をやり取りする場合、メールアドレスが本人性担保の一つであるため、自社のメールアドレスを指定のものにするのか、また、相手のメールアドレスの本人性をどうやって確かめるのか、という点も問題になってきます。
新しい視点からの業務フロー構築となるため、導入する場合の社内準備や社内決済が大変になるとことは考えられます。 - 漏洩するリスクがある
先のメリットの裏返しです。紙の契約書も紛失というリスクはありますが、保管方法を厳重にしておくことで、部外者による持ち出しのリスクはかなり低くできます。
一方、電子署名をした文書は、クラウドやサーバ上での管理になるため、外部からハッキングを受けて情報漏洩する可能性がありますし、クラウドやサーバにアクセスできる者は簡単にダウンロードできてしまいます。
ただ、電子契約書に限らず、サイバー攻撃への対策は現代の企業には必須といえますし、社内でのアクセス制御は難しくないため、リスクを低減することは可能です。
電子署名の仕組み
電子署名の仕組みは、大きく分けて2つあります。
1つは、当事者型とよばれるもので、当事者がそれぞれ、認証事業者が発行する電子証明書や秘密鍵を取得します。送信する側、秘密鍵を使って電子データを暗号化して電子署名及び電子証明書とともに相手に送信し、受信した側は公開鍵を用いてその文書が改ざんされていないことを確認します。
もう1つは、立会人型や第三者型とよばれるもので、第三者であるサービス事業者が、秘密鍵やタイムスタンプ等を利用して行うものです。多くはクラウドを使用するシステムです。
こちらの方法は、どのようにして本人性を担保するかが事業者によって異なるため、導入する場合は各社の仕組みをよく検討することが必要です。
電子署名の本人性の検証方法
電子署名の仕組みのうち当事者型は、認証局が発行した、電子証明書・秘密鍵・公開鍵というものを利用します。
秘密鍵と公開鍵はペアになっていて、秘密鍵で暗号化された文書は、ペアになっている公開鍵を使うと暗号を解くことができます。公開鍵はその名のとおり、広く公開されています。
文書を受信した側は、公開鍵を使って暗号を解くことで、本人が作成したものと確認できます。
この公開鍵は認証局が発行した電子証明書に記載されているため、電子証明書を取得していること自体も本人性の担保になります。
電子署名の非改ざん性の検証方法
上述した本人性の検証をすれば、ほぼ、その文書が改ざんされていないことが証明できます。
先ほど述べた秘密鍵による文書の暗号化は、文書をハッシュ値というものにしてから行われます。
受け取った側は、文書自体のハッシュ値とともに、秘密鍵とペアになっている公開鍵を利用して電子署名のハッシュ値も導きます。これが一致すれば、文書は改ざんされていないということになります。
このようにして文書が改ざんされていないことが明らかにできます。
電子署名を導入する際の注意点
電子署名の導入については、電子署名の方法として、当事者型にするのか、立会人型や第三者型にするのかを決めるほか、自社の取引内容や、社内での文書の保存方法、決済方法なども広く検討が必要です。
その際に押さえておきたい注意点を次に説明します。
書面の交付が義務付けられているものがある
紙面による契約書を法律が義務付けている場合には、電子署名は利用できません。
例えば、投資の際の約款や、宅地建物取引業者が交付する重要事項説明書などは紙での交付が義務付けられています。
これは、重要な財産上の取引であることや、取引の相手が一般消費者であり情報量に格差があると考えられることから、しっかりとした説明をして取引させる必要があるためです。
電子署名の導入を検討する際は、自社でよく行う取引が紙での書面交付が義務付けられているものかどうかチェックすることが大切です。
電子データを保存する義務がある
電子帳簿保存法10条により、電子取引において利用した書類の保存義務があります。対象となる書類は、契約書や見積書、発注書、請求書、領収書など取引にかかる全般的な書類です。
保存期間は紙の書類と同様で、欠損金の控除などを受けるときの書類は10年、それ以外の納税に関する書類は7年です。
なお、真実性の担保の要件の一つとして、タイムスタンプが付与されたデータを受領するか、受領後速やかにタイムスタンプを付与することが求められています。
そのため、電子署名の導入の際にはタイムスタンプ機能があるものを取り入れるほうが安心といえます。
電子署名の導入方法
電子署名の導入にあたっては、まずは自社が取り扱っている書類の種類を考慮します。
紙での交付が義務付けられている場合は、そもそも利用できない可能性もあります。
電子文書が交付可能でも、その本人性や改ざんの防止を重視するような場合には、当事者型の電子署名システム導入を検討すべきです。
文書の重要性以外には、社内フローや、書類保存の観点から検討することも大切です。
システムによっては、電子署名の社内決済をスムーズにするようなものもあります。社内決済をスムーズにすることで、業務の効率化や確実化が図れます。
電子書類の保存についても、契約書の内容ごとに分けたり、電子帳簿保存法の定める書類を保存期間中しっかり保管できたり、分類できたりするサービスが付加されているものもあります。
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また、これから導入を検討する場合、既存の紙の契約書との一元管理をどうするか、という点も重要です。
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