販売代理店契約書は、販売代理店の流通網を活用したいメーカー側と、メーカーのブランド力を活用して利益を挙げたい販売代理店側の間で締結されます。相手方から不当に重いリスクを押し付けられないように、AIツールを効果的に活用して販売代理店契約書のレビューを行いましょう。
今回は販売代理店契約書について、記載すべき事項や締結時の注意点などを解説します。
※この記事は、2023年2月20日時点の法令等に基づいて作成されています。


目次
販売代理店契約書とは
「販売代理店契約書」は、メーカーが販売代理店に対して、自社商品の販売を委託または許諾することを定めた契約です。
メーカーとしては、販売代理店の流通網を活用できるとともに、販促にかかる手間と人員を削減できるメリットがあります。販売代理店としても、訴求力のあるメーカーの商品や知名度を活用して利益を挙げられる点が大きなメリットです。
このようなメーカー・販売代理店の思惑が合致した場合に、販売代理店契約書が締結されることがあります。
2種類の販売代理店契約書
販売代理店契約書には、「販売店契約書」と「代理店契約書」の2種類があります。
販売店契約書
「販売店契約書」とは、販売代理店がメーカーから商品を買い取り、自ら顧客に販売する内容の取引を定めた契約書です。「ディストリビューター方式」とも呼ばれています。
メーカーとしては、販売代理店に商品を引き渡した段階で売上を計上できるため、収益を予測しやすいメリットがあります。販売代理店としては、エージェント方式(後述)よりも大きな利益を確保できる可能性がある点がメリットです。
ただし、ディストリビューター方式でも売れ残った商品の返品を認める場合は、エージェント方式との差が小さくなります。
代理店契約書
「代理店契約書」は、販売代理店がメーカーの代理人となり、メーカーと顧客の間の売買をサポートする旨を定めた契約書です。「エージェント方式」とも呼ばれています。
エージェント方式では、販売代理店が在庫リスクをとらない反面、売れ行き好調時の利益は小さくなる傾向にあります。メーカーとしては、売れ行き好調であればより大きな利益を得られる反面、不調の場合は在庫リスクが顕在化して大損失を被る点に注意が必要です。
販売代理店契約書に定めるべき主な事項
販売代理店契約書において定めるべき主な事項は、以下のとおりです。
- 販売の方式|ディストリビューター方式かエージェント方式か
- 販売商品の仕様・単価等
- 販売を行う地域の範囲
- 販売代理店の独占権の有無
- 販売代理店の裁量に関する事項
- 販売代理店の遵守事項
- 手数料の計算方法・支払いに関する事項
- 商品の返品に関する事項
- その他の一般条項
販売の方式|ディストリビューター方式かエージェント方式か
ディストリビューター方式(販売店契約)とエージェント方式(代理店契約)のどちらを採用するかは、販売代理店契約を締結するに当たって必ず明記しましょう。
<ディストリビューター方式の記載例> 第○条(販売店契約) 甲は乙に対し、本契約に定める条件に従い、甲の製品「○○」(以下「本製品」という。)の販売を非独占的に許諾する。 |
<エージェント方式の記載例> 第○条(代理店契約) 甲は乙に対し、甲の製品「○○」(以下「本製品」という。)の販売に係る代理業務を非独占的に委託し、乙はこれを受託する。 |
販売商品の種類・仕様・単価等
販売する商品の仕様は、できる限り具体的に特定する必要があります。技術的な細かい記載を要するケースが多いので、別紙にまとめるのが一般的です。
ディストリビューター方式の場合は、メーカーから販売代理店に対して商品の所有権を移転するに当たり、譲渡代金(単価)を定めます。単価は個別契約で定めるとするのが一般的ですが、販売代理店契約書において原則的な単価を定めることも考えられます。
(例) 第○条(本製品の仕様・単価) 1. 甲が乙に対して販売を委託(許諾)する本製品は、別紙1記載の仕様に従うものとする。 2. 甲の乙に対する本製品の譲渡に係る対価(以下「譲渡対価」という。)は、1個当たり○円とする。ただし、個別契約で別段の合意がなされた場合は、その内容に従う。 3. 乙は甲に対し、毎月○日までに、前月中に甲から所有権を譲り受けた本製品に係る譲渡対価の総額を、甲が別途指定する銀行口座に振り込むものとする。 |
販売を行う地域の範囲
商品販売を委託(許諾)するエリアについても、具体的に特定しましょう。特にメーカー側としては、ブランド戦略・需給バランス・コストなどの観点から、販売エリアを慎重に検討すべきです。
(例) 第○条(本製品の販売地域) 本契約に基づき、乙が本製品を販売できる地域は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県(以下「販売地域」と総称する。)とする。 |
販売代理店の独占権の有無
販売代理店に対して商品販売の独占権を与えるか否かは、販売代理店契約書における大きなポイントになるため、確実に明記しておきましょう。
<独占権を与える場合の例> (a)ディストリビューター方式 第○条(販売店契約) 甲は乙に対し、本契約に定める条件に従い、甲の製品「○○」(以下「本製品」という。)の販売を独占的に許諾する。 (b)エージェント方式 第○条(代理店契約) 甲は乙に対し、甲の製品「○○」(以下「本製品」という。)の販売に係る代理業務を独占的に委託し、乙はこれを受託する。 |
<独占権を与えない場合の例> (a)ディストリビューター方式 第○条(販売店契約) 甲は乙に対し、本契約に定める条件に従い、甲の製品「○○」(以下「本製品」という。)の販売を非独占的に許諾する。 (b)エージェント方式 第○条(代理店契約) 甲は乙に対し、甲の製品「○○」(以下「本製品」という。)の販売に係る代理業務を非独占的に委託し、乙はこれを受託する。 |
販売代理店の裁量に関する事項
価格の値下げや販売方法などについて、販売代理店側の裁量をどこまで認めるかを明記しましょう。
一般に、ディストリビューター方式であれば広く裁量を認め、エージェント方式であれば裁量をほとんど認めないケースが多いです。
なおディストリビューター方式の場合、再販売価格の拘束は認められません(独占禁止法2条9項4号)。メーカーが販売価格を決めたい場合は、エージェント方式を選択しましょう。
(例) 第○条(販売方法) 1. 乙が本製品を販売する際の販売方法は、別紙2の要項に従うものとする。乙が本製品の販売方法を変更する際には、事前に甲の書面による許可を得なければならない。 2. 前項にかかわらず、本製品の販売価格については、乙の裁量によって決定できるものとする。 |
販売代理店の遵守事項
販売代理店が販促活動を行うに当たって、遵守すべき事項を定めます。
たとえば、ブランド戦略などの観点からメーカー側の意向によって定められる禁止事項や、商品の販売状況に関する報告義務などを定めることが考えられます。販売する商品の種類・内容や取引の性質に応じて、必要と思われる事項を定めましょう。
(例) 第○条(遵守事項) 乙が本製品を販売するに当たっては、以下の事項を遵守しなければならない。 (1)本製品の甲が指定する位置に、甲が指定する商標を表示すること。 (2)公序良俗に違反する販促キャンペーン等を行わないこと。 (3)顧客その他の第三者から法律上の請求その他の重大なクレームを受けた場合には、直ちに甲へ報告し、その対応につき協議すること。 …… |
手数料の計算方法・支払いに関する事項
エージェント方式の場合、メーカーが販売代理店に支払う手数料について、計算方法・支払期日・支払方法を明記します。
手数料の計算方法については、売約数に比例させるのが一般的ですが、最低手数料を設ける場合もあります。支払方法については、販売代理店がメーカーに交付する販売代金から控除する形が一般的です。
なお、ディストリビューター方式の場合は、売買代金と小売価格の差が販売店の利益となるため、基本的に手数料の定めは不要です。
(例) 第○条(手数料) 1. 本製品の販売手数料は、顧客に対する販売代金の○%とする。 2. 乙は甲に対し、毎月○日までに、前月中に販売した本製品の販売代金の総額から、前項に基づき計算したその販売手数料を控除した残額を、甲が別途指定する銀行口座に振り込むものとする。 |
商品の返品に関する事項
ディストリビューター方式の場合、売れ残った商品の返品を認めるか否かを明記します。
なお、エージェント方式の場合は、売れ残った商品の所有権は当然にメーカーへ帰属するため、返品に関する規定は基本的に不要です。
(返品を認める場合の記載例) 第○条(本製品の返品) 乙は、本契約に基づき甲から所有権を譲り受けた日から○か月を経過した本製品を、甲に返品することができる。この場合、甲は乙に対して、当該本製品に係る譲渡対価の○%を返還するものとする。 (返品を認めない場合の記載例) 第○条(返品不可) 販売状況の如何を問わず、甲乙間の別段の合意がない限り、乙は甲に対して、本契約に基づき甲から所有権を譲り受けた本製品を返品することができない。 |
その他の一般条項
上記のほか、秘密保持・契約の解除・損害賠償などの一般条項を定めます。
- 秘密保持
当事者間でやり取りされる秘密情報につき、原則として第三者への開示・漏洩等を禁止します。 - 契約の解除
期間途中で一方的に契約を打ち切ることができる場合を列挙します。 - 損害賠償
契約違反を犯した場合に、相手方に対して負担する損害賠償責任の範囲を定めます。
販売代理店契約書のひな形を紹介
販売代理店契約書のひな形を紹介します。内容は個別に検討して決めるべきものなので、本記事で紹介した条文の記載例を参考に、必要な事項を盛り込んでください。
販売代理店契約書 ○○株式会社(以下「甲」という。)と△△株式会社(以下「乙」という。)は、以下のとおり売買契約書を締結する。 第1条(販売店契約or代理店契約) …… 以上 本契約締結を証するため、正本2通を作成し、甲乙それぞれ記名押印のうえ各1通を所持する。 ○年○月○日 甲 [住所] [氏名or名称] [(法人の場合)代表者] 印 乙 [住所] [氏名or名称] [(法人の場合)代表者] 印 |
販売代理店契約書を締結する際の注意点
販売代理店契約書を締結する際には、特に以下の各点に注意して内容をチェックしましょう。
- 自社に不利益な条項を見落とさない
- リスク分担の視点を意識する
自社に不利益な条項を見落とさない
自社のひな形ではなく、相手方が作成したドラフトをベースに販売代理店契約書を締結する場合は、自社に不利益な条項が含まれていないかよくチェックする必要があります。
相手方の義務を極端に軽減する条項や、自社の義務が標準よりも加重される条項などは、見落とさずに修正を求めるべきです。
リスク分担の視点を意識する
販売代理店契約書の条項には、メーカーと販売代理店の間のリスク分担が問題になるものが多く含まれています。
たとえば譲渡代金または手数料の設定、販売代理店に独占権を認めるか否か、返品を認めるか否かなどは、リスク分担が問題になる条項の代表例です。自社としてどの程度のリスクを許容できるか、リスクバランスが偏っていないかなどの視点を意識して、販売代理店契約書のレビューを行いましょう。
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販売代理店契約書を締結する際には、自社が過剰なリスクを負うことを防ぐため、不利益な条項が含まれていないかを網羅的にチェックする必要があります。そのためには、法務担当者による目視のチェックに加えて、AIツールによる機械的なチェックを併用することが有用です。
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