“We help the law to grow” -2つの法律を同時に変えた小さなチームの大きな視点

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Profile

渡部 友一郎
Airbnb Japan Lead Counsel/日本法務本部長 弁護士

2008年東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻(法科大学院)修了。同年司法試験合格、2009年弁護士登録(第二東京弁護士会)。英国系グローバルローファームであるフレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所、株式会社ディー・エヌ・エー法務部を経て、米国サンフランシスコに本社を有するAirbnb(エアビーアンドビー)のLead Counsel、日本法務本部長。ALB Japan Law Awardにて「In-House Lawyer of the Year 2018」(最年少受賞)、「In-House Lawyer of the Year 2020」を再受賞(日本人初)。経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」法務機能強化実装WG委員、経済産業省「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会」委員、東京大学公共政策大学院「企業の技術戦略と国際公共政策」ゲスト講師など。

Sessionのポイント

新しいビジネスをスピーディに世に送り出す時代において、法務部門には「ビジネスを助ける」役割が求められています。そこで本Sessionでは、「住宅宿泊事業法」「通訳案内士法」という2つの法律改正により、日本における民泊ビジネス本格化を実現させた渡部氏に

  • “We help the law to grow”とは何か
  • “We help the law to grow”の実現にあたり、法務に何が必要か

の考え方についてお話しいただきました(*)。

(*)なお、意見にわたる部分については同氏の個人的な私見である旨の注記があります。

法的リスクを検討し、ビジネスを前に進める力が求められる時代に

We help the law to grow -2つの法律を同時に変えた小さなチームの大きな視点_1

もしあなたが「公共政策に強い法務のチームをつくる」というミッションを与えられたら、どのような課題設定をするでしょうか。公共政策とは、民間企業だけでは処理・解決・準備できない公共性の高い課題に対して、政府や地方公共団体などに課題解決を働きかけていく部門や役割のことです。

ここではそのヒントの一つとして、“We help the law to grow”(法律が成長を助ける)というマインドについて紹介したいと思います。現代において、法律家はクライアントである企業から単なる法律解釈だけを求められることはなくなりつつあります。

求められているのは、法的リスクを検討した上で、ビジネスを前に進められるかどうかです。つまり「法的リスクがあるのでできない」と判断する時代から、「ルールを変えることはできないのか」と問われる時代になったということです。

“We help the law to grow”達成に必要な3つのポイント

“We help the law to grow”の達成には以下の3つのポイントがあると考えています。

①なぜ“We help the law to grow”が必要なのかを理解する

②“We help the law to grow”の達成には法改正までを担える法務の存在が不可欠である

③法務部門は必ずしも公共政策のプロではない

ルールメイキングを阻害する「ロックイン効果」とは

まず、①の「なぜ“We help the law to grow”が必要なのかを理解する」から話していきます。ルールメイキングの必要性を理解する上で大事なのが「ロックイン効果」というキーワードです。ロックイン効果は、いまある制度を変えるためにはコストや労力がかかるため、同じ状態が持続されやすい傾向にあるといった意味です。

ロックイン効果には、現状の制度に潜在している欠陥が再生産されやすいという特性があります。法律だけでなく、組織のルールやワークフローなど、さまざまなところにロックイン効果が潜んでいます。

当時は最適解だったルールであっても、時代の経過とともにロックイン効果の特性が生じているのではないか──。こうした疑いを持ったときにルールメイキングの扉が開くと私は考えています。

経済産業省の「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」の報告書(2019年)によれば、法務の機能として、「ガーディアン機能」「パートナー機能」の中に、ビジネスのルールを新しくつくる「ビジネスクリエーション機能」が含まれています。

私はこれに対し、法務機能はリスクマネジメントをベースに、ビジネスクリエーションなどの機能が上に乗ってくる階層構造だと考えています。

“We help the law to grow” -2つの法律を同時に変えた小さなチームの大きな視点_2

経済産業省がいま、大切にしている構想の一つに「アジャイル・ガバナンス」という考え方があります。これは、企業はルールを遵守するだけではビジネス環境の変化にアジャイルに(俊敏に)対応できないので、これからはルールの設定者になるべきだという考え方のことです。

法務がビジネスの価値を共創していくために、「公共政策におけるルールメイキングになぜ法務部門が取り組むのか」を理解し、ロックイン効果に常に敏感であるべきです。

ルールメイキングはリスク対応の究極形

We help the law to grow -2つの法律を同時に変えた小さなチームの大きな視点_2

次に、2つめのポイント「“We help the law to grow”の達成には法改正までを担える法務の存在が不可欠である」ということついて話します。

法務にとって「立法論」という言葉がルールメイキングの大きなブレーキとなることがあります。多くの法務担当者や法律家が、立法論(法律の解釈を超える議論は我々の仕事ではない)という姿勢を持ちやすいですが、私はあえて、そうではないと伝えたいです。

ビジネスを推進するにあたり立法論で解決できない課題が発生した場合でも、ルールメイキングで解決することは可能です。

リーガルリスクマネジメントの中に「リスクへの対応」というプロセスがあります。「目の前にあるリスクを緩和、圧縮する(Mitigation)」作業のことです。

法務は法的なリスクを「特定」し、「分析」し、「評価」を行い、「対応」する4つのフェーズを踏んでいきます。たとえば、全国で広告を行う際に、景品表示法のリスクが高まるケースがあるとします。このときに「いきなり全国展開するのはリスクが高いので、ある都道府県の一つでテストしながら反応を見る」といった対応策をとることがリスクへの対応です。

そして、ルールメイキングはリスク対応の“究極形”だと考えています。

ルールメイキングというのは、新しい領域という認識があるかも知れませんが、実は、私たち法律家が日常的に行うリサーチや分析、立法趣旨の検討を積み重ねて行われています

法務、公共政策、広報が協力し、ルールメイキングを

最後に、3つめのポイント「法務部門は必ずしも公共政策のプロではない」ということについて話します。

法律家は法廷で弁論の書面を出すように、公共政策の場面でも法律的な正論や証拠に基づく主張が相手に響くと勘違いしがちです。たしかに法律的には正しいかも知れませんが、正論をぶつけることで、相手が態度を硬化させる場合もあります。

つまり、どのようにステークホルダーとコミュニケーションしていくかが大事なのです。そして、ルールメイキングには法務、公共政策、広報の3つの役割が重要です。

法令調査は法務が担い、適切な人・時間・場所・方法を選びメッセージを発信することは公共政策が担います。そして、議論をどう増幅していくかを担うのが広報の役割です。この3つの輪がつながって機能することが重要なのです。

それぞれが専門領域の役割を果たす「謙虚なチームワーク」が相乗効果を生むと私は考えます。「法務は公共政策のプロではない」という自覚を持ち、法務、公共政策、広報が三位一体となったルールメイキングを心がけていくのです。

法務は万能ではありません。必要なプロフェッショナルの力を借りて、法律論・公共政策に役立つ議論を提供することで、みなさんのビジネスゴールの実現に寄与する法務を確立していってほしいと強く願っています。

私自身もまだまだ勉強中で、本日の講演についても、至らない点が多々あったかと思いますが、皆様のお役に立ったのであれば望外の幸いです。今後ともご指導をどうぞよろしくおねがいします。

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