「労働者派遣基本契約書」は、労働者の派遣に関して、派遣元と派遣先が締結する契約書です。個々の派遣条件は個別契約で定められますが、基本契約書ではすべての労働者派遣に共通する条件などが定められます。
労働者派遣基本契約書を締結する際には、労働者派遣法に基づく必要事項が明記されていることや、自社にとって不利益な条項が含まれていないことを慎重に確認しましょう。契約審査ツールを活用すると、労働者派遣基本契約書のレビューを効率的に行うことができます。
今回は労働者派遣基本契約書について、記載すべき事項・ひな形・締結時の注意点などを解説します。
※この記事は、2023年4月4日時点の法令等に基づいて作成されています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・労働者派遣法or法…労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
・規則…労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則


目次
労働者派遣基本契約書とは
「労働者派遣」では、派遣元と雇用契約を締結する労働者が、実際には派遣先の指揮命令下で労働を行います。
「労働者派遣基本契約書」は、派遣元と派遣先の間で、労働者派遣に関する基本的な枠組みを定める契約書です。
基本契約と個別契約
労働者派遣は継続的に行われるケースが多いため、基本契約と個別契約を締結するのが一般的です。
- 基本契約(労働者派遣基本契約書)
すべての労働者派遣に適用される基本的な枠組みを定めます。 - 個別契約
個々の労働者を派遣する際の具体的な条件を定めます。
労働者派遣契約に関する派遣法の規制
労働者派遣法および同法施行規則では、労働者派遣契約に定めるべき事項が規定されています(法26条1項・規則22条)。
法・規則に基づき規定が必要な事項については、基本契約と個別契約に分けて規定します。労働者派遣基本契約書では、すべての労働者派遣に共通して適用すべき事項を漏れなく定めましょう。
労働者派遣基本契約書に定めるべき事項
労働者派遣基本契約書に定めるべき主な事項は、以下のとおりです。
- 契約の目的
- 派遣料金に関する事項
- 個別契約に関する事項
- 派遣元責任者・派遣先責任者に関する事項
- 指揮命令者に関する事項
- 派遣元事業主の遵守事項
- 安全・衛生に関する事項
- 苦情処理に関する事項
- 契約の解除に関する事項
- その他一般条項(個人情報保護、秘密保持義務、有効期間、損害賠償、合意管轄など)
契約の目的
労働者派遣基本契約書の冒頭では、契約の目的が労働者派遣の実施にあることを明記しましょう。
(例) 第○条(目的) 本契約は、乙が、乙の雇用する労働者(以下「派遣労働者」という)を甲に派遣し、甲が派遣労働者を指揮命令して業務に従事させること(以下「労働者派遣」という)につき、必要な事項を定めることを目的とする。 |
派遣料金に関する事項
派遣料金については、業務内容などに応じた計算方法を定めます。具体的な計算方法については、基本契約書の外で合意するケースも多いです。
(例) 第○条(派遣料金) 甲は、労働者派遣の対価として、乙に対し、甲乙間で別途合意する方法によって計算した額の派遣料金を支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。 |
個別契約に関する事項
基本契約と個別契約の関係性を明確化するため、労働者派遣基本契約書において以下の事項を定めましょう。
- 個別契約の締結方法
- 個別契約に規定すべき内容
- すべての個別契約に基本契約が適用される旨
- 基本契約と個別契約のどちらが優先するか
(例) 第○条(個別契約) 1. 甲および乙は、労働者派遣を実施する都度、以下の事項を定めた個別契約(以下「個別契約」という)を締結する。 (1)派遣労働者が従事すべき業務の内容 (2)派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称および所在地その他派遣就業の場所ならびに組織単位 (3)労働者派遣の期間および派遣就業をする日 (4)派遣就業の開始および終了の時刻ならびに休憩時間 (5)派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度 (6)派遣就業の時間を延長できる日および時間数 (7)派遣労働者の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合における、当該便宜供与の内容および方法 (8)…… 2. 本契約に定める事項は、個別契約にも適用されるものとする。ただし、本契約の規定と個別契約の規定が矛盾抵触する場合は、個別契約の規定が優先する。 |
派遣元責任者・派遣先責任者に関する事項
労働者派遣に関して、派遣元と派遣先は、それぞれ派遣元責任者・派遣先責任者を選任することが義務付けられています(法36条、41条)。労働者派遣基本契約書でも、各責任者に関する事項を定めておきましょう。
第○条(派遣元責任者・派遣先責任者) 1. 乙は、自己の雇用する労働者の中から、事業場ごとに派遣元責任者を選任し、派遣元責任者をして、派遣労働者の適正な就業確保のための措置を講じさせるものとする。 2.甲は、自己の雇用する労働者の中から、事業場ごとに派遣先責任者を選任し、派遣元責任者をして、派遣労働者の適正な就業確保のための措置を講じさせるものとする。 |
指揮命令者に関する事項
派遣先における指揮命令者に関しては、労働者派遣基本契約書において以下の事項を定めましょう。
- 派遣先が指揮命令者を選任すること
- 個別契約の規定を遵守して派遣労働者を指揮命令すること
- 派遣労働者を契約外の業務に従事させないこと
- 派遣労働者に対する周知指導
など
(例) 第○条(指揮命令者) 甲は、自己の雇用する労働者の中から、就業場所ごとに指揮命令者を選任し、以下の事項を遵守させるものとする。 (1)業務の処理について派遣労働者を指揮命令するに当たり、個別契約の規定を遵守すること。 (2)派遣労働者を契約外の業務に従事させないこと。 (3)派遣労働者が安全、正確かつ適切に業務を処理できるように、業務処理の方法その他の必要な事項を周知および指導すること。 |
派遣元事業主の遵守事項
労働者派遣に関する派遣元の遵守事項として、以下の内容を定めておきましょう。
- 適正な労働者の派遣
- 代替要員の確保
など
(例) 第○条(派遣元事業主の遵守事項) 1. 乙は甲に対して、本契約の目的を達するために必要な能力、技術、知識、資格、技能、経験等(以下「能力等」という)を有する適正な労働者を派遣しなければならない。 2. 甲は、派遣労働者が前項の目的を達するために必要な能力等を欠いていると合理的に認めたとき、または派遣労働者の病気、事故その他の事由により欠員が生じるおそれがあるときは、乙に対して代替要員の派遣を求めることができ、乙は実務上合理的な範囲で速やかにこれに応じるものとする。 |
安全・衛生に関する事項
安全・衛生に関する事項として、派遣元・派遣先の各責務を労働者派遣基本契約書に定めておきましょう。
(例) 第○条(安全・衛生) 1. 甲および乙は、互いに労働安全衛生法等の法令を遵守し、派遣労働者の安全および衛生の確保に努めるものとする。 2. 乙は、甲に対して派遣する派遣労働者を雇用する際、当該派遣労働者に対して、労働安全衛生法に定める安全衛生教育を行わなければならない。 3. 乙は、甲に対して派遣する派遣労働者を雇用する際、必要に応じて健康診断を実施した上で、派遣就業に適した健康状態の派遣労働者を甲に派遣しなければならない。 |
苦情処理に関する事項
派遣労働者から苦情の申出があった際には、互いに協力して解決すべき旨を定めます。
(例) 第○条(苦情処理) 1. 甲および乙は、派遣労働者から苦情の申出があった場合には、互いに協力して当該苦情の処理を行うものとする。 2. 前項により苦情を処理した場合、甲および乙は、その結果を派遣労働者に通知するものとする。 |
契約の解除に関する事項
労働者派遣基本契約書の解除については、以下の事項を定めましょう。
- 解除要件
- 解除の手続き
- 解除時に講ずる派遣労働者の雇用安定措置
なお派遣先は、派遣労働者の国籍・信条・性別・社会的身分や、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたことなどを理由として、労働者派遣契約を解除することはできません(法27条)。
(例) 第○条(契約の解除) 1. 甲または乙は、相手方が正当な理由なく本契約、個別契約または労働者派遣法その他の法令に違反した場合には、当該違反の是正を催告した上で、相当な期間内に是正がなされなければ、本契約を解除することができる。 2. 前項にかかわらず、甲または乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当した場合には、催告を要せずして本契約を解除することができる。 (1)手形交換所の取引停止処分があったとき。 (2)公租公課の滞納処分があったとき。 (3)…… |
その他一般条項
労働者派遣基本契約書には上記のほか、以下の一般条項を定めるケースが多いです。
- 個人情報保護
- 秘密保持義務
- 有効期間
- 損害賠償
- 合意管轄
など
労働者派遣の個別契約に定めるべき事項
労働者派遣の個別契約には、法26条1項・規則22条で規定が義務付けられる事項のうち、労働者派遣基本契約書には定めがない個別の派遣条件を定めます。
具体的には、以下の事項を個別契約で定めましょう。
- 派遣労働者が従事すべき業務の内容
- 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称および所在地その他派遣就業の場所ならびに組織単位
- 労働者派遣の期間および派遣就業をする日
- 派遣就業の開始および終了の時刻ならびに休憩時間
- 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度
- 派遣就業の時間を延長できる日および時間数
- 派遣労働者の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合における、当該便宜供与の内容および方法
労働者派遣基本契約書のひな形を紹介
労働者派遣基本契約書のひな形を紹介します。実際の契約内容は、労働者派遣に関する取引の実情に応じて決める必要がありますので、本記事で掲げた条文記載例などを参考にしてください。
労働者派遣基本契約書 ○○(以下「甲」という。)と△△(以下「乙」という。)は、以下のとおり労働者派遣基本契約書を締結する。 第1条(目的) 本契約は、乙が、乙の雇用する労働者(以下「派遣労働者」という)を甲に派遣し、甲が派遣労働者を指揮命令して業務に従事させること(以下「労働者派遣」という)につき、必要な事項を定めることを目的とする。 …… 以上 本契約締結を証するため、正本2通を作成し、甲乙それぞれ記名押印のうえ各1通を所持する。 ○年○月○日 甲 [住所] [氏名or名称] [(法人の場合)代表者] 印 乙 [住所] [氏名or名称] [(法人の場合)代表者] 印 |
労働者派遣基本契約書を締結する際の注意点
労働者派遣基本契約書を締結する際には、特に以下の2点にご注意ください。
- 労働者派遣法の必要事項を漏れなく定める
- 自社に不利益な条項を見落とさない
労働者派遣法の必要事項を漏れなく定める
労働者派遣に関する基本契約・個別契約では、両者を合わせて法26条1項・規則22条所定の事項を漏れなく定める必要があります。規定すべき事項に漏れがあると、厚生労働大臣による指導・助言・改善命令・公表等の対象となるので注意が必要です(法48条~49条の2)。
労働者派遣基本契約書を締結する際には、法令上の必要事項が漏れなく定められていることを確認しましょう。
自社に不利益な条項を見落とさない
相手方の義務を極端に軽減する条項や、自社の義務が標準よりも加重される条項などが定められている場合には、見落とさずに修正を求めるべきです。
特に相手方がドラフトを作成した場合には、自社に不利益な条項が含まれている可能性が高いので、注意深くチェックを行いましょう。
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労働者派遣基本契約書を締結する際には、個別契約との棲み分けを意識しながら、労働者派遣法に基づく必要事項を規定しなければなりません。また、自社にとって不利益な条項があれば見逃さずに指摘し、契約上のリスクをコントロールすることが求められます。
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これまでは条文一つひとつを細かく見ながら、過去の契約書やさまざまな資料を突き合わせてチェックしていましたが、LegalForceを使えば瞬時に行えるので、非常に大きな成果を得られています。

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