秘密保持契約(NDA)は、企業が最も頻繁に締結する契約の一つです。汎用的な契約であるからこそ、重要なチェックポイントを正しく理解する必要があります。AIツールなども効果的に活用して、秘密保持契約の適切なレビューを行ってください。
今回は秘密保持契約(NDA)について、締結の目的や定めるべき事項などを解説します。
※この記事は、2023年1月20日時点の法令等に基づいて作成されています。


目次
秘密保持契約(NDA)とは
「秘密保持契約(NDA)」とは、当事者間でやり取りした秘密情報につき、相手方の承諾がない開示・漏えい・目的外利用などを禁止する契約です。
M&Aや業務提携・業務委託などの取引を検討する場合、契約を締結する前に、あらかじめ当事者間で情報のやり取りが行われます。授受される情報には、当事者の営業秘密などが含まれるため、事前に秘密保持契約を締結するケースが多いです。
秘密保持契約(NDA)を締結する目的
企業が秘密保持契約を締結するのは、主に以下の目的によります。
- ノウハウや顧客情報などの流出を防止する
- 秘密情報の目的外利用を禁止する
- 安定した契約交渉の環境を確保する
ノウハウや顧客情報などの流出を防止する
M&Aや業務提携・業務委託など、新たな取引を検討するに当たっては、当事者が互いに保有するノウハウや顧客情報などをやり取りするのが一般的です。
これらの情報が第三者に流出すると、市場における競争優位が失われたり、不祥事によって会社のレピュテーションが低下したりすることが懸念されます。そのため、ノウハウや顧客情報が相手方から流出するリスクは、最小限に抑えなければなりません。
秘密保持契約では、ノウハウや顧客情報などを「秘密情報」と定義し、開示者の承諾がない開示・漏えいが禁止されます。当事者が互いに秘密保持義務を負うことにより、ノウハウや顧客情報の流出リスクを最小限に抑えることが可能です。
秘密情報の目的外利用を禁止する
取引に先立ってやり取りされるノウハウや顧客情報は、あくまでも当該取引を検討する目的に限って利用されるべきものです。例えば、提供を受けたノウハウを利用して商品を模造販売したり、顧客情報を利用して相手方の顧客を奪ったりすることは、取引上の信義則の観点から許されません。
このような目的外利用を禁止することも、秘密保持契約を締結する目的の一つです。開示者の承諾がない目的外利用を禁止すれば、取引が終了した場合や破談になった場合などにおいて、提供したノウハウや顧客情報などが勝手に利用されることを防げます。
安定した契約交渉の環境を確保する
秘密情報が流出すると、風評によって企業価値が乱高下するなど、契約交渉の環境が乱されてしまうおそれがあります。せっかくお互いにとって利益となり得る取引を検討しているのに、秘密情報の流出によって破談に追い込まれてしまうのは避けるべき事態です。
交渉開始の前段階で秘密保持契約を締結することには、安定した契約交渉の環境を確保する意味合いもあります。当事者が互いに秘密保持義務を負い、緊張感を持って情報管理を行うことにより、取引のメリット・デメリットに焦点を当てた適切な契約交渉が可能となります。
秘密保持契約の締結が必要になるケースの例
秘密保持契約の締結が必要になるケースの例は、下記のとおりです。
- 外部のパートナーと新商品を開発するとき
- 事業提携や合併・買収(M&A)をするとき
- 外部コンサルタントを利用するとき
外部のパートナーと新商品を開発するとき
新製品や技術開発においては、外部のパートナーや専門家と協力するケースがあります。新製品開発には、競争力を保つために必要な知的財産が含まれており、これらの情報が競争相手に漏れると優位性が大きく損なわれる可能性があります。
こうしたリスクを防ぐため、秘密保持契約(NDA)を結ぶことで情報の安全が確保されます。これにより、パートナー企業や専門家が共有された情報を適切に取り扱い、無許可で第三者に開示したり、自己の利益のために使用することを禁止します。
事業提携や合併・買収(M&A)をするとき
事業提携や合併、買収(M&A)を行う際には、企業戦略や財務データなどを共有する必要があります。通常は非公開で保護されるべき重要な情報であるため、当事者間で秘密保持契約(NDA)を締結します。
これにより、情報の不適切な利用や漏洩を防止し、信頼性と透明性を維持しつつ、事業提携やM&Aのプロセスをスムーズに進められます。
外部コンサルタントを利用するとき
外部コンサルタントを利用する際は、重要な業務情報、市場戦略、顧客データなど、業界やビジネスに関する詳細情報の共有が必要です。これらの情報が漏えいすると、企業の競争優位性が損なわれる可能性があります。
そのため、コンサル契約を結ぶ際に、情報の適切な取り扱いと機密保持を徹底するために秘密保持契約(NDA)を結びます。
秘密保持契約を締結するタイミング
秘密保持契約(NDA)の締結は、秘密情報を交換するより先に行いましょう。情報が開示された後では、それらの情報が秘密として適切に管理されるかについての同意を得る前に、情報が無許可で使用されるなどのリスクが高まるためです。早めのNDA締結により、情報が不適切に使用されたり、漏洩したりするリスクを大幅に減らせます。
取引の可能性を探る初期段階では、秘密保持契約(NDA)を締結せずに打ち合わせを進めるケースもあります。しかし、特に重要な秘密情報が関与する場合には、秘密保持契約(NDA)を締結しないでのコミュニケーションは大きなリスクとなり得ます。
取引が成立しなかった場合でも、事前に秘密保持契約(NDA)を締結していないと、自社の秘密情報が受け取り側に一方的に使用される可能性があります。
秘密保持契約(NDA)を結ぶメリット
企業が秘密保持契約(NDA)を結ぶメリットは、下記のとおりです。
- 秘密情報の流出防止
- 損害賠償請求ができる
- 秘密情報の範囲を指定できる
秘密情報の流出防止
秘密保持契約(NDA)を結ぶメリットは、秘密情報の予期せぬ流出を未然に防ぐことです。契約締結により、契約を結ぶ当事者は自身の秘密情報の流出防止に向けて、より意識を高める効果が期待できます。その結果、不必要な情報漏えいのリスクを大幅に減らせます。
ただし、取引先の情報管理体制が不十分であると、NDAを結んでいても秘密情報が流出する可能性があります。したがって、秘密保持契約を結ぶ前には、取引先が秘密情報を適切に管理できる能力を有しているかを確認するとよいでしょう。
損害賠償請求ができる
秘密保持契約(NDA)を結んでいると、情報漏えいが発生した際に相手方に対して契約不履行に基づく損害賠償を請求できます。さらに、契約文書において行為の差止請求が可能であると明示しておけば、情報の漏洩が生じたりその可能性が見込まれる場合に、予防的な対策として行為の差止請求を行えます。
秘密情報の漏洩が引き起こす損害は、場合によっては莫大な額にのぼります。NDAを結んでおくことで、損害に関わるリスクを回避できるでしょう。経済産業省が公表している「秘密情報の保護ハンドブック 〜企業価値向上に向けて〜」には、NDAの条項が契約違反の抑止力となるとの記述があります。
秘密情報の範囲を指定できる
秘密保持契約(NDA)は、当事者が防止すべき「秘密情報」の範囲を明確に定義します。秘密情報の範囲は、各当事者の意向や取引の性質により異なりますが、通常、不正競争防止法によって保護される営業秘密よりも広範囲に設定することで、より効果的な秘密保護が実現されます。
不正競争防止法は、特定の商業秘密を保護しますが、これらの要件を満たす情報は必ずしも企業が保護したい全ての情報をカバーしているわけではありません。不正競争防止法は、公平な競争を維持する目的で制定された法律であり、主に営業秘密の侵害などを規制しています。その保護対象は、秘密管理性、有用性、公然と知られていないことの3つの要件を満たす営業秘密に限られます。これらの要件を満たす情報が相手方に侵害された場合、または侵害の可能性がある場合には、同法に基づいて損害賠償請求や行為の差止請求を行うことができます。
しかし、この法律ではカバーできない情報についても保護が必要な場合があります。こうした場合、秘密保持契約(NDA)は重要な役割を果たします。秘密保持契約(NDA)により、不正競争防止法の枠組みを超えて、更に広範な秘密情報の保護を定められます。
秘密保持契約(NDA)に定めるべき主な事項
秘密保持契約を締結する際、規定すべき主な事項は以下のとおりです。
- 締結の目的
- 秘密情報の定義
- 秘密情報の開示・漏えいの禁止
- 秘密情報の開示を認める例外的な場合
- 秘密情報の目的外利用の禁止
- 秘密情報の返還・破棄
- 契約の有効期間
- その他の一般条項
締結の目的
秘密保持契約の前文などでは、秘密保持契約を締結する目的を記載する必要があります。具体的には、どのような取引を検討する目的で秘密保持契約を締結するのかを明記します。
(例) 「AとBは、業務提携の可能性を検討するに当たり、AB間で授受される秘密情報の取り扱いを定めるため……以下のとおり秘密保持契約を締結する。」 「AとBは、AがBを買収するM&A取引を検討するに当たり、AB間で授受される秘密情報の取り扱いを定めるため……以下のとおり秘密保持契約を締結する。」 |
秘密保持契約の目的規定は、後述する「目的外利用」の基準となります。秘密保持の実効性を確保するため、目的の範囲を過度に狭く限定しない方がよいでしょう。上記の記載例を参考にしてください。
秘密情報の定義
秘密保持契約の本文の冒頭(第1条など)では、「秘密情報」の定義を定めるのが一般的です。
「秘密情報」として定義された情報は、第三者に対する開示・漏えいの禁止等の対象になります。なお、目的となる取引を検討している事実や、秘密保持契約の存在自体も秘密情報に含めます。
(例) 「秘密情報とは、本契約の目的に関連して、一方当事者が他方当事者から開示を受けた一切の情報をいい、口頭、文書、電磁的記録その他いかなる形態、媒体によるかを問わないものとする。」 「秘密情報とは、本契約の目的に関連して、一方当事者が他方当事者から秘密である旨を明示の上で開示を受けた情報をいい、口頭、文書、電磁的記録その他いかなる形態、媒体によるかを問わないものとする。」 |
なお、秘密保持義務を負わせるべきでない情報(公知情報など)については、秘密情報の定義から除外しておきましょう。
(例) 「ただし、次の各号のいずれかに該当するものは、秘密情報に該当しないものとする。 (1)情報受領者が受領した時点で既に保有していたもの (2)情報受領者が受領した時点で既に公知であったもの (3)情報受領者が受領した後、その責によらずに公知となったもの (4)情報受領者が第三者から秘密保持義務を負わずに適法に取得したもの (5)情報受領者が秘密情報に依拠することなく独自に開発したもの」 |
秘密情報の開示・漏えいの禁止
秘密保持義務の中心的な内容として、情報受領者は開示者の承諾なく、秘密情報を第三者に開示・漏えいしてはならない旨を明記します。
(例) 「情報受領者は、情報開示者の事前の書面による承諾がない限り、秘密情報を第三者に開示または漏えいしてはならない。」 |
秘密情報の開示を認める例外的な場合
秘密情報の無断開示は禁止されるのが原則ですが、実際には開示がやむを得ず、または開示のたびに承諾を取得するのは煩雑に過ぎるケースがあります。
そこで、以下のような場合については、例外的に秘密情報の開示を認める旨を明記しておきましょう。
- 公的機関からの開示要請があった場合
- 法律上の守秘義務を負う専門家に開示する場合
- 自社の役員、従業員や関係会社に開示する場合
など
(例) 「前項の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当するときは、情報受領者は合理的に必要な範囲内で秘密情報を開示できるものとする。 (1)法令等の定めに基づき、または公的機関から開示要請を受けた場合に、その要請に従って開示するとき (2)本契約の目的のために必要な範囲内で、弁護士、公認会計士、税理士その他法律上の秘密保持義務を負う専門家に対して開示するとき (3)本契約の目的のために必要な範囲内で、本契約で定める情報受領者の義務と同等の秘密保持義務を負うことを条件に、情報受領者の役員もしくは従業員、または関係会社の役員もしくは従業員に開示するとき |
秘密情報の目的外利用の禁止
ノウハウや顧客情報が無関係の目的に利用されることを防ぐため、秘密情報の目的外利用を禁止する旨を明記しておきましょう。
(例) 「情報受領者は、情報開示者の事前の書面による承諾がない限り、秘密情報を本契約の目的以外の目的で利用してはならない。」 |
秘密情報の返還・破棄
秘密情報の保有期間が長ければ長いほど、相手方が秘密情報を流出させてしまうリスクが高くなります。
そのため、取引の検討終了時や、秘密保持契約の有効期間満了時には、秘密情報の返還・破棄を請求できる旨を明記しておきましょう。
(例) 「情報受領者は、本件取引の検討終了後または本契約の終了後に、情報開示者から請求を受けたときは、情報開示者の合理的な指示に従い、秘密情報が記載または記録された書面、電磁的記録その他の資料等を直ちに返還、破棄または消去する。ただし、法令等の定めに基づき、当該資料等を保持することが要請されている場合には、この限りでない。」 |
契約の有効期間
秘密保持契約の有効期間に関しては、以下の事項を明記しておきましょう。
- 契約の始期と終期
- 自動更新の有無、ある場合は期間
- 解約申入れの手続き
- 契約終了後も存続する条項と、その存続期間
など
なお、秘密保持義務が永続すると当事者の負担が重いため、秘密保持義務の存続期間は、契約終了後1~3年程度に限定するのが一般的です。
(例) 「本契約の有効期間は、2023年2月1日から2024年1月31日までの1年間とし、有効期間満了の1か月前までに、いずれかの当事者の書面による本契約終了の意思表示がなければ、さらに同一条件で1年間更新され、以降も同様とする。」 「第○条、第○条……の規定は、本契約の有効期間満了後も、なお依然としてその効力を有するものとする。ただし、第○条に定める秘密保持義務については、本契約終了後1年間に限る。」 |
その他の一般条項
上記のほか、以下の一般条項を定めておきましょう。
(1)反社会的勢力の排除 ・反社会的勢力に該当しない旨の表明、確約 ・反社会的行為をしない旨の確約 ・違反した場合の無催告解除権 ・違反した場合の損害賠償 (2)損害賠償 ・損害賠償の範囲 ・違約金を定める場合は、その金額など (3)準拠法 ・秘密保持契約の解釈、適用を行う際に準拠する法 (例)「本契約は日本法を準拠法とし、かつ、これに従い解釈されるものとする。」 (4)合意管轄 ・紛争が発生した際、訴訟を提起する裁判所 (例)「東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」 など |
秘密保持契約書の送付・締結方法
秘密保持契約書を紙で作成する場合は、原本を2つ作成します。その1つを相手方に送付し、署名と押印のうえ返送してもらいます。もう1つは自社用です。原本であることを示すため、割印も必要な点には留意しましょう。
電子契約で秘密保持契約書を結ぶ際には、電子契約サービスを用いて契約を締結します。近年では、電子契約の利用が徐々に増えてきている傾向です。電子サインとタイムスタンプを用いることで、紙の契約書と同じ効力を発揮します。
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