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共同研究開発契約書に記載すべき事項・締結時の注意点|ひな形も紹介

共同研究開発契約書に記載すべき事項・締結時の注意点|ひな形も紹介

共同研究開発契約書」は、共同で技術的な研究開発を行う者の間で締結する契約書です。

共同研究開発契約書を締結する際には、研究開発の過程や成果物に関して、トラブルのリスクを適切に管理する視点が重要になります。また、自社にとって不利益な条項を発見したら、相手方に対して修正を求めましょう。
AIツールを活用することにより、共同研究開発契約書を効率的かつ適切にレビューできるようになります。未導入の企業は、AIツールの新規導入をご検討ください。

今回は共同研究開発契約書について、記載すべき事項・ひな形・締結時の注意点などを解説します。

※この記事は、2023年4月26日時点の法令等に基づいて作成されています。


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共同研究開発契約書とは

共同研究開発契約書」は、技術的な研究開発を共同で行う当事者の間で締結する契約書です。

企業同士が締結するケースのほか、企業と大学、あるいは企業と研究機関の間で締結するケースもあります。研究開発の過程や成果物などに関するルールを定め、当事者間のトラブルを防止することが共同研究開発契約書の主な目的です。

共同研究開発契約書に定めるべき主な事項

共同研究開発契約書に定めるべき主は、以下のとおりです。

  • 研究開発の対象
  • 当事者の役割分担
  • 当事者間における情報提供・設備利用
  • 研究開発責任者・研究開発員
  • 研究開発費
  • 第三者への委託
  • 研究開発に関する進捗報告等
  • 知的財産権の帰属
  • 研究開発成果の公表
  • ノウハウの保護
  • 研究開発成果の実施・利用許諾
  • 職務発明・改良発明に関する事項
  • その他の事項

研究開発の対象

まずは、どのような製品等を共同して研究開発を行うのかを明記しましょう。

(例)
第○条(目的)
本契約は、甲および乙が△△の課題解決に資する製品または装置等を共同して研究し、または開発すること(以下「本研究開発」という。)に関して、必要な事項を定めることを目的とする。

当事者の役割分担

研究開発の役割分担は、その進捗に応じて適宜当事者間で協議すべきですが、契約上も大まかな役割分担を明記しておきましょう。詳細な役割分担については、別紙に分けて記載することも考えられます。

(例)
第○条(役割分担)
本研究開発に関する業務分担は、原則として別紙○のとおりとし、その詳細については、甲乙間で協議の上別途定める。

当事者間における情報提供・設備利用

共同での研究開発に当たっては、当事者間で資料・情報を相互に提供する必要があります。また状況次第では、設備利用を相互に認める必要が生じるかもしれません。
共同研究開発契約書では、当事者間における情報・設備の提供に関するルールを定めておきましょう。

(例)
第○条(情報の提供・設備等の利用)
1. 甲および乙は、本契約の期間中、各自が保有しかつ本研究開発の遂行に必要な資料・情報を相互に開示する。ただし、第三者に対して秘密保持義務を負っているものは、この限りでない。
2. 甲および乙は、前項により相手方から開示された資料・情報を本契約の目的のみに使用し、その他の目的に使用してはならない。
3. 甲および乙は、相手方に対して、本研究開発を遂行するため合理的に必要な範囲内において、相手方が管理する設備または施設の利用の許可を請求することができる。
4. 前項に基づく請求を受けた相手方は、正当な理由がある場合を除き、当該利用を許可しなければならない。この場合、当該利用を許可された者は、当該設備または施設の管理者が定める規則に従って、当該利用をするものとする。

研究開発責任者・研究開発員

研究開発のキーパーソンがいる場合には、その者を共同研究開発に参加させる旨や、退任時の取り扱いなどを明記します。
また、不適切な者が研究開発に参加することを防ぐため、研究開発員の追加・退任時の手続きについても定めておきましょう。

(例)
第○条(研究開発責任者・研究開発員)
1. 甲および乙における本研究開発の責任者(以下「研究開発責任者」という。)は、それぞれ別紙○に掲げる者とする。研究開発責任者は、自社の役員または従業員等が本研究開発へ参加するに当たり、本契約の規定を遵守させなければならない。
2. 甲および乙は、本研究開発の方針および内容を決定し、これを実施する研究開発員(以下「研究開発員」という。)として、それぞれ別紙○に掲げる者を本研究開発に参加させる。
3. 甲および乙は、研究開発員を新たに本研究開発へ参加させる場合には、事前に相手方の同意を得なければならない。
4. 甲および乙は、研究開発員の本研究開発への参加を終了させる場合には、その合理的な理由を示した上で、事前に相手方へ通知するものとする。ただし、事前通知が困難である合理的な事情が存する場合には、事後速やかに通知することで足りる。

研究開発費

共同での研究開発について、発生する費用の予算・使途・負担割合などを定めます。費用についての透明性を高めるため、定期報告についても定めておくのがよいでしょう。

(例)
第○条(研究開発費用)
1. 本研究開発の予算および使途は、別紙○に定めるとおりとする。
2. 甲および乙は、第○条に定める役割分担に従い、自らが分担する業務分担項目に係る費用をそれぞれ負担する。共同で行う実施項目に係る費用およびいずれの負担か明確でない費用に関しては、以下の割合により負担する。
甲:60%
乙:40%
3. 前項にかかわらず、甲および乙は、自らの役員または従業員に支払う人件費を各自負担する。
4. 甲および乙は、本研究開発について1月1日から12月末日までに自ら支出した費用の実績を、翌年○月末日までに相手方に対して報告するものとする。

第三者への委託

共同研究開発に関する業務を、第三者に委託する際のルールも定めておきましょう。
不適切な者が研究開発に参加することを防ぐため、共同研究開発者の承諾がある場合に限って外部委託を認めるのが一般的です。

(例)
第○条(第三者への委託)
甲及び乙は、相手方の書面による事前同意を得た場合に限り、本研究開発に係る業務を第三者に委託することができる。

研究開発に関する進捗報告等

当事者相互間において、研究開発に関する進捗報告を行うべき旨を定めましょう。必要に応じて随時進捗報告を行うのが原則ですが、定期的な進捗報告会の開催を定めることも考えられます。

(例)
第○条(進捗状況等の報告)
1. 甲および乙は、本契約の有効期間中、四半期ごとに本研究開発の進捗状況を確認するための会議を開催する。
2. 前項の規定にかかわらず、甲および乙は、本研究開発の進捗状況等に関して、必要に応じて随時相手方に対する報告を行うものとする。

知的財産権の帰属

共同研究開発の結果として生み出された発明等の成果物につき、知的財産権がどのように帰属するかを定めます。知的財産権の出願についても、担当者や費用負担を定めておきましょう。

(例)
第○条(知的財産権の帰属)
1. 甲および乙は、本研究開発によって発生する知的財産権(以下「本知的財産権」という。)を共有し、その持分割合は以下のとおりとする。
甲:60%
乙:40%
2. 本知的財産権に関する出願手続きは、甲および乙の合意に基づいて甲が行い、乙はこれに協力する。
3. 甲及び乙は、本知的財産権の出願手続その他の権利保全に要する費用を、第1項に定める持分割合に応じて負担する。

研究開発成果の公表

研究開発成果の公表は、全共同研究開発者の同意に基づき行うのが原則です。ただし、一部の共同研究開発者が不当に公表を拒否する場合も想定して、その対応についても明記することが望ましいでしょう。

(例)
第○条(研究開発成果の公表)
1. 甲および乙は、本研究開発によって得られた研究成果(以下「本研究成果」という。)を公表しようとする場合には、その内容、時期および方法につき、あらかじめ相手方の書面による承諾を得るものとする。
2. 甲および乙は、前項の承諾を求める書面を相手方(以下「公表希望当事者」という。)から受領した場合、当該書面を受領した日の翌日から○営業日以内に、承諾の可否(拒否する場合はその合理的な理由を含む)を公表希望当事者に対して通知しなければならない。
3. 前項に定める期間内に、合理的な理由を付した拒否の通知が到達しなかった場合には、公表希望当事者は、本研究成果を公表することができる。

ノウハウの保護

共同研究開発によって得られた成果の中には、知的財産権の出願をせず、ノウハウとして保護すべきものも含まれます。共同研究開発契約書では、保護すべきノウハウを指定する手続きを定めておきましょう。

(例)
第○条(ノウハウの指定等)
1. 甲および乙は、本研究成果のうち、ノウハウとして保護することが相当なものを、甲乙間の協議によって指定することができる。
2. 甲および乙は、前項に基づく指定がなされた本研究成果につき、当該指定が解除されない限り、知的財産権の出願をしてはならず、その内容その他の秘密を厳に保持するものとする。

研究開発成果の実施・利用許諾

共同研究開発の成果物につき、当事者が自ら実施する際のルールや、第三者に利用を許諾する際のルールを定めておきましょう。

(例)
第○条(本研究成果の実施・第三者に対する実施許諾)
1. 甲および乙は、相手方に対して金銭の支払い等を要せず、本研究成果を実施することができる。
2. 甲および乙は、相手方の書面による同意を得て、第三者に本研究成果の実施を許諾することができる。当該許諾の条件については、甲乙間の協議により別途定める。

職務発明・改良発明に関する事項

職務発明(=従業員などによる発明)に当たる成果物については、共同研究開発契約書に基づく出願ができるように対応すべき旨を、当事者間において相互に義務付けるべきです。
改良発明(=共同研究開発の成果をベースとして、新たに生み出された発明)に当たる成果物については、権利の帰属や他の当事者への通知、他の当事者による利用などに関するルールを定めておきましょう。

(例)
第○条(職務発明の取り扱い)
甲および乙は、契約または就業規則その他の社内規程により、職務として本研究成果に係る発明(以下「本発明」という。)をした従業者から、本発明の特許を受ける権利の譲渡を受け、 または同権利が原始的に自らに帰属することにより、本契約に基づく本発明の特許出願が可能となるようにしなければならない。

(例)
第○条(改良発明)
1. 甲または乙が、本発明に基づく改良発明(以下「改良発明」という。)を行ったときは、当該改良発明に関する知的財産権その他の一切の権利は、当該改良発明を行った者に帰属する。ただし、本契約に別段の定めがある場合は、この限りでない。
2. 甲および乙は、改良発明を生み出したときは、相手方に対してその旨および当該改良発明の内容を速やかに通知する。
3. 甲および乙は、改良発明を行った当事者に通知をして、当該改良発明を実施することができる。
4. 前項に基づき改良発明を実施する者は、相手方に対して合理的な実施許諾料を支払わなければならない。実施許諾料の金額、精算方法その他の条件は、甲乙間の協議によって別途定める。

その他の事項

共同研究開発契約書には上記のほか、以下の事項などを定めておきましょう。

  • 第三者との紛争
    →共同研究開発の成果物等につき、第三者からクレームを受けた場合などに、協力して対処すべき旨などを定めます。
  • 秘密保持
    →共同研究開発に関する情報を公開されるまで他言しないこと、その他の秘密保持に関するルールを定めます。
  • 有効期間
    →共同研究開発契約書の有効期間を定めます。

共同研究開発契約書のひな形を紹介

共同研究開発契約書のひな形を紹介します。具体的な契約内容については、本記事で紹介した条文記載例などを参考にしてください。

共同研究開発契約書を締結する際の注意点

共同研究開発契約書を締結する際には、以下の各点に十分注意してドラフトのレビューを行いましょう。

  • 研究開発過程・成果物についてトラブルのリスクを管理する
  • 自社に不利益な条項を見落とさない

研究開発過程・成果物についてトラブルのリスクを管理する

共同研究開発契約書の対象は、研究開発過程と成果物の取り扱いの2段階に大別されます。

共同研究開発の具体的な内容や役割分担を踏まえて、各段階において想定されるトラブルを念頭に、そのリスクを適切に管理できるような条項を定めましょう。

自社に不利益な条項を見落とさない

契約書をレビューすることの大きな目的は、自社に不利益な条項について修正を求めることにあります。

相手方に過剰な権利を認める条項や、自社の負担を標準よりも加重する条項などは、見落とさずに修正を求めましょう。特に相手方がドラフトを作成した場合には、不合理な条項が含まれている可能性が高いので要注意です。

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参考文献

独立行政法人工業所有権情報・研修館「(3)共同研究契約書」
https://www.inpit.go.jp/content/100874776.pdf


<この記事を書いた人>

Nobisiro編集部

AI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」を提供するLegalOn Technologiesが運営する、法務の可能性を広げるメディア「Nobisiro」編集部。の法務担当者の日々の業務に役立つ情報を発信しています。

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