2021年10月6日、株式会社LegalForceは、2回目の自社カンファレンスとなる「LegalForce Conference 2021」を開催しました。本記事では、Panel Session「変化の時代に求められる法務のリーダー像」のレポートをお届けします。
大島 葉子
日本マイクロソフト株式会社 執行役員
政策渉外・法務本部長 弁護士(日本・ニューヨーク州)一橋大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科及びハーバード・ロースクール(LL.M)修了。1999年4月入所のアンダーソン・毛利(当時)法律事務所、2003年入所のCleary Gottlieb Steen & Hamilton LLP(NY州)を経て15年前に企業内弁護士に。現職の前はGEジャパン株式会社執行役員ゼネラル・カウンセルとGEデジタル・アジアのゼネラル・カウンセルを兼任。
小田 将司
ビジョナル株式会社 法務室 室長2007年、東京大学法学部卒業。2008年より西村あさひ法律事務所で、M&A業務やクロスボーダー企業法務に従事。2014年には三菱商事株式会社法務部に出向し、自動車・船舶・産業用機械に関するビジネスの海外展開を法務戦略面で支援。2015年、英国ケンブリッジ大学にて経営学修士課程(MBA)を履修。2016年、株式会社ビズリーチ入社。営業・組織開発などに携わった後、2020年2月より、法務室室長を務める。2021年8月、現職に就任。
妹尾 正仁
Zホールディングス株式会社 執行役員 法務統括部長 ヤフー株式会社 法務統括本部長慶應義塾大学、大阪大学法科大学院を経て、2009 年より森・濱田松本法律事務所で弁護士として知的財産・訴訟・企業法務を担当。2012 年にヤフー株式会社入社、経営戦略やM&Aなどに携わる。その後、社会貢献サービスの責任者や官公庁・政策との連携を所管。2019年より法務本部を管掌する。2019年10月、会社分割で持株会社体制に移行し、Zホールディングス株式会社法務統括部長。2020年4月ヤフー株式会社執行役員 法務統括本部長に就任。2021年1月よりZホールディングス株式会社執行役員 法務統括部長。
渡部 友一郎
Airbnb Japan株式会社 Lead Counsel/日本法務本部長 弁護士2008年東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻(法科大学院)修了。同年司法試験合格、2009年弁護士登録(第二東京弁護士会)。
英国系グローバルローファームであるフレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所、株式会社ディー・エヌ・エー法務部を経て、米国サンフランシスコに本社を有するAirbnbのLead Counsel、日本法務本部長。ALB Japan Law Awardにて「In-House Lawyer of the Year 2018」(最年少受賞)、「In-House Lawyer of the Year 2020」を再受賞(日本人初)。経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」法務機能強化実装WG委員、経済産業省「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会」委員、東京大学公共政策大学院「企業の技術戦略と国際公共政策」ゲスト講師など。
髙林 佐知子
横河電機株式会社 法務部 法務部長1993年に横河電機株式会社に入社。同社で国際法務を中心に企業法務のキャリアを積み、2018年4月から現職。横河電機管弦楽団「アンサンブル横河」コンサートマスター。共著に、企業法務入門テキスト(商事法務 2016年)、新型コロナ危機下の企業法務部門(商事法務 2020年)、今日から法務パーソン(商事法務 2021年)。
佐々木 毅尚(モデレーター)
株式会社LegalForce 執行役員 CLO1991年4月 明治安田生命保険相互会社入社。2003年5月アジア航測株式会社、2004年7月YKK株式会社、2016年9月 太陽誘電株式会社を経て2021年7月 LegalForce入社。 企業法務を始め、コンプライアンス、ガバナンス、内部統制、リスクマネジメント、国際法務といった多種多様な法務業務を担当。太陽誘電では法務部長として、部門のマネジメントとリーガルテック活用などによる法務部門の改革に取り組む。
▼「LegalForce Conference 2020」のレポートについては、以下のリンクから無料でダウンロードいただけます。
➡ LegalForce Conference 2020公式レポート
Panel Sessionのポイント
世の中の変化に伴い、法務に求められる役割も変化しています。そうした中、法務組織を導くリーダーにはどのような資質や役割が求められるのか。Panel Sessionでは、LegalForceConference2021にご登壇いただいた、大島氏、小田氏、妹尾氏、渡部氏、髙林氏に、
- いま法務組織に起きている変化
- 法務組織がもつべきミッション・ビジョン
- 変化の激しい時代に、法務リーダーに求められる役割
などについて、お話しいただきました。
法務組織に起きている変化とは
佐々木氏 LegalForceConference2021では、「ルールをつくる。」「社会を変える。」がテーマでした。Panel Sessionでは、まず、社会や環境が変化する中で、ここ数年「法務組織にどのような変化が起きているのか」についてお話しいただきたいと思います。
妹尾氏 僕としては、「法務も変わらなきゃ」ということを考えざるを得ない状況になっているのが、一番大きな変化だと思っています。昔は、目の前の仕事を一生懸命やるだけでもよかったと思いますが、いまはそれにプラスして、組織に起こる変化を言語化していかないといけない時代になっていると思います。
佐々木氏 事業環境が変わって、法務も変わらないといけない時代になりましたね。5年前は、アメリカと中国が貿易で戦うことになるなんて、誰も想像できていなかったです。また、コロナウイルスにより会社にいけなくなる時代がきて、働き方も変わりました。そんな中で、法務に求められるものも変化しているという印象です。
髙林氏 私は、法務に起こった変化は3つあると思っています。1つ目は、組織として、積極的に提案・発信する姿勢を求められるようになったこと。いままで受け身だった働き方を改善しろと言われることが多くなったように感じています。2つ目は、ハードローだけではなく、ソフトローにも対応していかないといけない時代になったことです。そして、3つ目は、個人情報保護法など、より多くの地域・国に規制が広がる中、各国法に個別対応しながら全体調整しなければならなくなったことです。
佐々木氏 たしかに、10年前は、個人情報保護法などは全然意識していなかったですよね。それが最近ヨーロッパで厳しい法律ができて、いまアジアにも広まってきています。いままで法務の担当ではなかった案件も法務が担当しないといけないという状況になっていますよね。
髙林氏 そうですね。横河電機では、情報セキュリティはIT部門が主管ですが、個人情報保護に関しては、実質的に法務が主導している状況です。法規制が厳しくなって、専門性が求められる時代になり、法務の仕事が増えていると感じます。
法務がもつべきビジョン・ミッションとは
佐々木氏 続きまして、法務のビジョン・ミッションについて、議論したいと思います。みなさまの法務部門で掲げているビジョン・ミッションはありますか?
小田氏 ビジョナルでは、「事業のための法務」というキーワードを軸に、ビジョン・ミッションをつくっています。キーワードに共感してくれる人が集まり、組織の文化として根づいていくよう、日々発信を続けています。「何をする組織なのか?」「その組織において法務は何をすべきなのか?」を明らかにすることで、ビジョン・ミッションが浸透し、個々人の行動が変わっていくと思うので、すごく大事にしています。
大島氏 マイクロソフトは、2021年に法務組織の再編をし、その過程で2025年までを見据えたミッションをつくりました。
- Earn trust and prepare for regulation (訳:信頼を築き、来る法規制に備える)
- Build solutions for customers(訳:顧客のためのソリューションをつくる)
- Using technology to solve big problems(訳:テクノロジーを用いて大きな問題を解決する)
一見すると法務のミッションに感じないかもしれませんが、これがマイクロソフト法務のミッションです。法務のみの視点ではなく、もっと大きな視点でのミッションを掲げています。
髙林氏 いま私は、横河電機で3年半くらい法務部長をやっていますが、いきついたビジョンは、「Be a solution-oriented team」です。「ソリューションを提供するリーガルチームであれ」といった意味です。経営者や各事業部の方々に、我々法務を使ってもらえるようになるために、「法務部はこういう機能を提供するチームですよ」ということを伝える活動を行っています。
妹尾氏 Zホールディングスでは、法務単体のビジョン・ミッションはなく、「行動の指針」となるようなバリューをつくっています。たとえば、変化することが安定につながる・利他的な行動をとるといった、社内でどう振る舞えばいいかといった内容を定めています。法務の外での変化が激しいので、それらに対応していけるようなバリューを決めて、みなに行動してもらうことを心掛けています。
佐々木氏 ところで、みなさんは法務のビジョン・ミッションを定期的に見直したりするのでしょうか?
髙林氏 毎年は見直しませんが、チームがビジョン・ミッションを確認し、どこに向かっているのかを知るプロセスをつくることが大事だと思っています。
小田氏 ミッション・ビジョンには2つの側面があると思います。1つ目は「組織の価値観・あるべき姿」としてのビジョン・ミッションで、2つ目は「組織の中長期的な目標」としてのビジョン・ミッションです。後者は、時代に合わせて随時見直していくものだと思っていますが、前者はあまり変えないものだと思っています。
変化の激しい時代において、法務のリーダーには何が求められるのか
佐々木氏 いま「VUCAの時代(※変動性・不確実性・複雑性・曖昧性を含んだ時代)」になっていると思っていますが、こうした時代に対応するために、法務のリーダーに求められるものは何なのでしょうか。
渡部氏 「法務部内が、役職者やリーダーに対して自由に意見を言えること(心理的安全性:サイコロジカルセーフティ)を確保された環境であるか」が大切だと思います。変化が激しい時代において、最初に問題を発見するのは、事業部と直接やりとりをするチームメンバーです。しかし、せっかく問題を発見したとしても、自由に意見を言える環境でないと、役職者やリーダーまで情報が上がってきません。そう考えると、「自由に意見を言える環境づくり」「心理的安全性がある環境づくり」をできるかという点が、法務のリーダーに求められていると思います。
佐々木氏 Airbnbでは、どのようにそうした環境をつくっているのですか?
渡部氏 心理的安全性に関する研修を行い、組織としてどういう設計にすれば心理的安全性を確保できるかを考え、緻密に組み立てていると一社員として感じます。また、「マネジャー(部下を1人でも持つ者)は働いている人にとって会社の最も大切な顔になる」という前提のもと、役職者の責任も意識も相対的に高く、自発的にリーダーシップについて学び、自己研鑽をしている方が多いです。
妹尾氏 自分で「いいこと言ったな」と思った話があるので(笑)、それについてお話させていただきます。あるとき他部門から「事故が起きたかもしれない」という相談がきたのですが、よくよく確認したところ、実は事故は起きていなかったということがありました。
そのとき、相談をしてきた方が申し訳なさそうにずっと謝罪をしていました。それをみて、その担当者の方に「こういうことは何度も繰り返してくれて全然大丈夫。ありがとうございます。」と今後の心理的安全性確保のために、あえて多くの人や部門の方が聞いている場で伝えたということがありました。こういうリーダーシップのとり方もある、と自分自身気づきがあった事案でした。
大島氏 私は、会社の経営陣と対話しながら、今後の方向性を見据えて広い視点で法務を提供していけるリーダーが求められているのではないかと思っています。
また、問題があったときにその情報がきちんと報告される体制をつくるという点では、「悪いニュースを受け止める力」も必要だと思いますね。
小田氏 現代は、いろいろな情報をオープンにする力学が働く時代になっているので、会社全体としてはもちろんのこと、法務リーダーとしても、自分の考えやさまざまな情報をオープンにしていく姿勢が大切です。情報をオープンにするというのは、勇気がいる場合もありますが、隠しておくと結局解決できない問題が増えるだけになるので、やはり情報をオープンにしていくことが組織としての生存戦略にもなると思っています。
▼「LegalForce Conference 2021」の様子は、YouTube上でも配信しています。ぜひご覧ください。