2021年10月6日、株式会社LegalForceは、2回目の自社カンファレンスとなる「LegalForce Conference 2021」を開催しました。本記事では、一橋大学ビジネススクール客員教授・名和高司氏による基調講演「リーガルマインドが拓く新SDGs」のレポートをお届けします。
Profile
名和 高司
一橋大学ビジネススクール客員教授東京大学法学部、ハーバード・ビジネス・スクール卒業(ベーカースカラー授与)。三菱商事勤務、マッキンゼーを経て、2010年より現職。ファーストリテイリング、味の素、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、アクセンチュア、インターブランドなどのシニアアドバイザーを兼任。『パーパス経営』、『経営変革大全』など著書多数。
▼「LegalForce Conference 2020」のレポートについては、以下のリンクから無料でダウンロードいただけます。
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目次
基調講演のポイント
コロナなどの影響により、変化の激しい時代になりました。そんな中「パーパス(志本)経営」という次世代型の経営モデルが、いま注目を集めています。
基調講演では、パーパス経営の第一人者である名和氏に、
- パーパス経営とは何か
- パーパス経営を実現するため、リーガルパーソンが果たすべき役割とは
- パーパスを社員一人ひとりに浸透させるために、何をすべきか
といった内容をお話しいただきました。
21世紀は「パーパス経営」の時代
本日は「パーパス経営」についてお話しします。結論からいうと、「パーパス経営」は、21世紀の企業にとって一番大事なエンジンのようなものだと思っています。
パーパス(purpose:存在理由)という言葉が、Googleの検索にて2回急増した年がありました。
1回目は、リーマンショックに見舞われた2008年。TEDで有名なスピーカーのサイモン・シネック氏が、『WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』(2012年、日本経済新聞出版)という本を出版しました。その本の中で、「why(なぜ存在するのか)」、つまり「purpose」を問い直そうじゃないかという話があり、検索が急増しました。
一般的に、企業では「result(結果)」が必要なので、「result」を出すために「what(何をするか)」「how(どうやるか)」を気にします。
しかし、そもそも企業の存在理由(なぜその企業がいなければいけないのか・何をするために存在するのか)という「why」を問い直そうという流れが起こったのです。
「資本主義」から「志本主義」へ
2回目が2020~2021年にかけてです。コロナ禍に見舞われる中、いま世界は「資本主義(キャピタリズム)」から「志本主義(パーパシズム)」に向かっています。
企業は、「①顧客市場、②人財市場、③金融市場」の3つの市場をもっていますが、各市場において「パーパス」が求められるようになってきていることが、検索急増の要因です。
- 顧客市場では、エシカル消費などが流行し、「環境や社会に配慮したビジネスを行っている企業から商品を購入したい」といった顧客が増えています。
- 人財市場では、「ミレニアル世代」「Z世代」など、社会課題・環境問題への関心が高い世代が増えつつあります。
- 金融市場でも、ESG投資が世界的に広まり、財務情報以外の情報が重視されるようになっています。
つまり、現代では、「環境や社会に配慮したビジネスの展開や、SDGsなどへの取組みは、企業がやって当たり前だ」という認識が主流になっています。
いま企業が問われているのは、それの「規定演技」に取り組んだうえで、「あなたの会社は何をしようとしているのか」という「パーパス」なのです。これが、2020~2021年にかけて、「パーパス」がもう一度注目されている理由です。
パーパス経営と新SDGs
SDGsは、
- S=Sustainable
- D=Development
- Gs=Goals
の略称です。しかし、私が考える新SDGsでは、
- S=Sustainable
- D=Digital
- Gs=Globals
としています。
「S」から、順に説明します。
Sは、SDGsと同じ「Sustainable」ですが異なる点もあります。SDGsでは「17のゴール」を定めていますが、パーパシズムから考えると、これだけでは不十分です。先ほども述べたように、企業がSDGsで掲げられた課題に取り組むのは当たり前だからです。そこで新SDGsでは、そこから一歩進んで企業は18個目のゴールを自ら定めるべきだと考えています。この18個目のゴールが、その会社を象徴する「パーパス」になります。
Dは、「Digital」としています。「Sustainable」を本気で実現しようとすると、どうしてもコストがかかります。そこで解決策となるのが「Digital」です。Digitalを使い、業務や事業、経営そのものを変革(トランスフォーメーション)できるかがカギになります。
Gは、「Globals」としています。コロナや米中摩擦などでボーダーフルになってきていますが、パーパスを広げていくためには、もう一度分断された世界を再結合する必要があります。
SDGsが進まない理由
SDGsがゴールとして掲げる分野は、いずれも社会課題であり、困っている人が多くいる=明確に需要があるといえます。そのため、うまくできれば事業成長につなげることも可能ですが、安易に取り組んでしまうと赤字になります。
なぜなら、需要があることが明確だとしても儲からない分野だからです。儲からない分野だから、社会課題のままなのです。こうした分野では、イノベーションがない限り儲けるのは難しいです。
そこで、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という考え方が大事になります。CSVでは、
- 社会価値(SDGsのような社会的課題)
- 経済価値(企業価値であり、キャッシュフロー)
の両立を目指します。
チョコレートや水の販売を手掛けるネスレを例にとりあげてみます。ネスレは、自社と社会との共通価値として、「水資源」などを定義しています。
社会的に問題となっている「水資源」の枯渇は、ネスレの企業活動に、さまざまな悪影響(例:原料が育たない・食品加工ができないなど)をもたらします。ネスレにとっては「水資源保全への取組み=SDGsの一貫」ではなく、れっきとした彼らの「主力ビジネス(経済価値)」なのです。ゆえに、ネスレは「水資源」を自分たちのCSVに設定しています。
このように、パーパス経営においては、自社のCSVを設定し「SDGsなど自明の事項に取り組んだうえで、自分たちは何をするのか」が重要です。
パーパス経営で利益は出せるのか
パーパス経営で、よく論点になるのは、「パーパス経営は利益に結びつくのか」ということです。結論からいうと、「パーパス経営」をしっかりと実践できれば、売上の増加・コストの削減につながります。
まず、きちんとパーパスを設定している企業はファンが増えるので売上が増えます。パーパスに共感してくれるお客様が、SNSなどで「いいね」とシェアしてくれるからです。
次に、コスト(特に、マーケティングコスト・人件費)の削減につながります。
マーケティングコストが削減されるのは、パーパスに共感するお客様が商品を自発的にシェアしてくれるようになるからです。自分たちで広告費をかけて宣伝していく必要がなくなります。
人件費が削減されるのは、社員がパーパスを自分事化すると、やる気にあふれるようになるからです。パーパスを自分事化し、やる気にあふれた社員の生産性は、約2~3倍上がるという研究結果が出ています。
パーパス経営のM字カーブ
ところで、M字カーブという言葉をご存知でしょうか。実はパーパス経営にも、M字カーブがあります。
図をみるとわかるように、30~45歳はパーパスへの関心が減少します。この年代は、さまざまなKPIを持っているため、パーパスなんていっている場合ではないからです。これを、パーパス経営におけるM字カーブといいます。
パーパス経営においては、この年代にいかにパーパスを浸透させるかが課題になります。
パーパスの浸透に有効な方法としては、まず、「パーパスワークショップ」が挙げられます。「自分たちがこの会社で何をしたいのか」を社員に語ってもらう場が、パーパスワークショップです。
もう一つは、1on1ミーティングです。上司と部下の1対1で、
- will:何がしたいのか
- can:何ができるのか
- must:何をやらなきゃいけないのか
を考え、これらがパーパスとどう結びつくのかを明確にしていくことが効果的です。
パーパス経営を実現するために、リーガルパーソンが果たすべき役割
最後に、パーパス経営を実現するために、リーガルパーソンが果たすべき役割について、お話しします。
まず、コンプライアンスや法令を確実に守ることは、大前提です。そのうえで、リーガルパーソンが何を目指すのかという場合、「共通善」という言葉がキーワードになると考えています。
共通善とは、「社会全体に共通して正しいこと」といったことを意味しますが、マイケル・サンデル教授は、「共通善は地域によって異なる」と主張しています。
そうなると、「何が正しいのか」という疑問に対して、唯一の絶対的な答えはないということになります。
そのため、リーガルパーソンは「何が正しいのかは自分たち一人ひとりが、判断していくのだ」というマインドを持ち、法務業務を行っていくことが大切だと考えています。
▼「LegalForce Conference 2021」の様子は、YouTube上でも配信しています。ぜひご覧ください。