2021年10月6日、株式会社LegalForceは、2回目の自社カンファレンスとなる「LegalForce Conference 2021」を開催しました。本記事では、パネルセッションでディスカッションされた「経済産業省が進める企業単位の規制改革制度について」のレポートをお届けします。
坂下 大貴
経済産業省 経済産業政策局 新規事業創造推進室
法務専門官(光和総合法律事務所・パートナー弁護士)
2010年に弁護士登録、2019年から経済産業省の法務専門官(非常勤)として企業単位の規制改革制度に携わり、多くの新規事業に関与してビジネススキームの検討等を行う。所属事務所でも、複数業界のルールメイキング・健全化にかかわり、幅広い視点でのリーガルサービスを提供。その他、企業法務、訴訟業務、不正調査等を取り扱う。
岩間 郁乃
経済産業省 経済産業政策局 新規事業創造推進室
法務専門官(岩間文里法律事務所・弁護士)
2013年弁護士登録。2013年12月、西村あさひ法律事務所に入所し、ジェネラル・コーポレート、危機管理、ロビイング等の業務に携わる。2019年6月から現職にて、グレーゾーン解消制度・新事業特例制度・規制のサンドボックス制度等の法改正・運用実務に携わり、産業競争力強化法の債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例創設等に寄与。
渡邉 遼太郎
経済産業省 経済産業政策局 知的財産政策室
室長補佐 弁護士(新規事業創造推進室の業務を兼任)
2015年弁護士登録、東京八丁堀法律事務所入所。同所にて企業法務・訴訟業務等を中心に執務。2019年から経済産業省知的財産政策室に出向。同室で不正競争防止法関連業務、知的財産関連業務を担当。また、新規事業創造推進室の業務を兼任し、企業単位の規制改革制度に携わり、多くの新規事業に関与してビジネススキームの検討等を行う。
官澤 康平(モデレーター)
法律事務所ZeLo・外国法共同事業 弁護士
2011年東京大学法学部卒業、2013年東京大学法科大学院修了。2014年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、長島・大野・常松法律事務所入所。2019年8月法律事務所ZeLoに参画。弁護士としての主な取扱分野は、ルールメイキング/パブリック・アフェアーズ、M&A、ジェネラル・コーポレート、訴訟・紛争、危機管理・コンプライアンス、など。執筆に「総会IT化を可能とするシステム・技術への理解」(ビジネス法務2020年12月号)、『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)ほか。
▼「LegalForce Conference 2020」のレポートについては、以下のリンクから無料でダウンロードいただけます。
➡ LegalForce Conference 2020公式レポート
Sessionのポイント
経済産業省(以下、経産省)は2021年10月現在、産業競争力強化法に基づき、「企業単位」での規制改革を進めています。
法律事務所ZeLo・外国法共同事業の弁護士・官澤氏がモデレーターを務めた本Sessionでは、経産省の坂下氏、岩間氏、渡邉氏の3名に
- 新事業についてあらかじめ規制の適用の有無を確認する「グレーゾーン解消制度」
- 個別の事業計画ごとに規制の特例措置の適用を認める「新事業特例制度」
- 規制適用を受けない形で実証を行い、規制見直しにつなげる「規制のサンドボックス制度」
の3制度の特徴と活用のポイントを、具体的事例や申請書の記載事項の解説を交えながらお話しいただきました。
過剰規制を解消する3制度
岩間氏 まずは3つの制度の制定経緯を説明します。
「イノベーションを起こすための工夫に関する企業アンケート報告書」(2018年、日本生産性本部)では、「日本のイノベーションを阻害する要因」の一つとして「規制や制度」があげられています。
こうした声に加え、日本経済の課題であった過小投資、過剰規制、過当競争の「3つの過」の解消を目指して2013年に「産業競争力強化法」が成立しました。特に過剰規制の解消を目指して
- グレーゾーン解消制度
- 新事業特例制度
の2制度が設置されました。
そして、2018年、Society5.0に対応した生産性革命を進めるために成立した「生産性向上特別措置法」の中で、イノベーションの社会実装を目的に
- 規制のサンドボックス制度
が設置されました。その後、2021年6月に成立した改正産業競争力強化法において、規制のサンドボックス制度も前出の2制度と並ぶ産業競争力強化法上の制度として位置付けられました。
「グレーゾーン解消制度」活用のポイント
渡邉氏 「グレーゾーン解消制度」は、構想中の新事業が法令に抵触するかどうかわからないときに活用できる制度で、事業者は、具体的な事業計画に則し、規制が適用されるかどうかをあらかじめ確認できます。
グレーゾーン解消制度を活用する際のポイントは3つです。
1つ目は、制度を利用する条件として新しい事業である必要があるということです。ただし、日本初や世界初の事業である必要はなく、その事業者にとっての新事業であれば要件を満たします。
2つ目は、法の解釈、法の適用の有無についての確認にあたっては、その新事業が具体的に「○○法の第○○条に違反するかどうか」という形で照会する必要があるということです。たとえば、「この事業は日本にある、いかなる規制にも引っかからないか」といった照会はできません。
3つ目は、具体的な事業スキームの提示が必要であるということです。新事業の法令適用について規制所管に回答を求める際、具体的なビジネスモデルがわからないと判断できないためです。
「新事業特例制度」活用のポイント
岩間氏 新事業特例制度は、現状の規制下ではできなかった事業に特例を設け、安全性等の確保を条件として、「企業単位」で、規制の特例措置の適用を認める制度です。
新事業特例制度を活用する際のポイントは4つです。
1つ目は、新事業特例制度を利用する場合も新しい事業であることが必要です。
2つ目は、新事業特例制度の最大の特徴は、認定を受けた事業者が従来の規制では行えなかったことを行うことが可能になるという点です。そのため、事業者にとっては、先行者利益を獲得できるというメリットが期待できます。
3つ目は、規制の特例措置を認める代わりに、安全性などを確保するための代替措置を実施することが条件となることです。代替措置は従来の規制の保護法益を意識しながら組み立てていきます。
4つ目は、新事業特例制度を利用するためには、「①特例措置の創設→②特例措置の利用」の2ステップを踏む必要があることです。なお、特例措置の創設にかかわった事業者ではなかったとしても、申請をして認定を受ければ特例措置の利用ができます。
「規制のサンドボックス制度」活用のポイント
坂下氏 規制のサンドボックス制度は、AIやIoTなどの“新技術”の実用化や、プラットフォーム型ビジネスやシェアリングエコノミーのような“新しいビジネス”の構築を考えている事業者が活用できる制度です。
事業者に実証計画を作っていただき、認定を受けた後に実証を行います。その結果として得られたデータを用いて、規制の見直しにつなげていくことが制度の目的です。
規制のサンドボックス制度のポイントは4つあります。
1つ目は、規制のサンドボックス制度を利用する場合は新技術等の実証であることが必要です。この「新技術等」とは「ある事業分野に関して新規性を有している」ことを要件としています。
2つ目は、この制度を利用する際は、期間、参加者、金額等を限定する等して、適法な環境を構築して、実証をする必要があるということです。
3つ目は、新技術等効果評価委員会の意見を聴取する手続を行う必要があることです。通常、事業者が規制所管に対して相談する場合、二者間での対話になると思いますが、この制度では有識者で構成される新技術等効果評価委員会が第三者的な立ち位置で入り、意見を述べたり、内閣総理大臣を通じて勧告を行ったりすることを予定しています。そのため、非常に強力なバックアップが期待できると言えます。
4つ目は、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しにつなげていくことが制度として予定されていることであり、やりっぱなしの実証実験で終わらないようになっています。
▼「LegalForce Conference 2021」の様子は、YouTube上でも配信しています。ぜひご覧ください。