2022年3月8日、株式会社LegalForceは、企業法務で活躍する女性の力にスポットをあてたイベント「LEGAL WOMEN’S FORCE 2022 ―法務最前線で活躍する、女性の力―」を開催しました。
LegalForceコラムでは、本イベントの内容を前編・後編にわけて、ダイジェストでレポートします。
前編:【基調講演】「120%」で突き抜ける、理想のキャリアの掴み方
後編:【トークセッション1】変化するライフステージ×法務プロフェッショナルの挑戦
【トークセッション2】法務最前線で活躍する法務部門長の「頭の中」
※本記事は後編です。前編をお読みなりたい方は「こちら」からご覧ください。
※Legal Women’s Force 2022 のトークセッションのアーカイブ視聴はこちらからお申し込みいただけます。
目次
セッション①「変化するライフステージ×法務プロフェッショナルの挑戦」のポイント
ライフステージが変わる中でも変わらず仕事にエネルギーを注ぎ、法務プロフェッショナルとしての活躍を続ける女性たち。そのパワーの源は一体どこから来ているものなのでしょうか。
本セッションでは、大企業、スタートアップ、法律事務所といった、全く異なる環境で法務パーソン/弁護士として活躍する一方、子どもをもつ女性という共通点がある3名の女性に、
- 事業部やクライアントにとってどんな存在であることを志しているのか?
- 事業部やクライアントと関係性を深めるため、どんなことに挑戦しているのか?
をお話しいただきました。
スピーカープロフィール
松尾 優子 氏
双日株式会社法務部日本/ニューヨーク州弁護士。東京大学法学部卒業、東京大学法科大学院・Georgetown University Law Center (LL.M.)修了。司法修習を経て双日株式会社に入社し、エネルギー・金属・インフラストラクチャーなどの事業を法務面より支援。2021年5月より法務部企画戦略ユニットに所属し、法務部の業務効率化・人財育成・ナレッジマネジメントなどを担っている。
石川 佳代 氏
ひめさゆり法律事務所
代表弁護士2012年早稲田大学大学院法務研究科修了。2013年に弁護士登録し、ディーエルエイ・パイパー東京パートナーシップ外国法共同事業法律事務所を経て、2018年に新潟県三条市にてひめさゆり法律事務所を設立。
現在は、地場の企業の法律顧問業務及び一般民事案件を広く手掛ける。
著書に「外国税額控除コンパクトガイド」(共著)等がある。
佐藤 愛子 氏
ヘイ株式会社
リーガル・コンプライアンスグループ
マネージャー慶應義塾大学法学部卒。SIerでの約20年のキャリアにおいて、法務をはじめ、広報、経営企画、営業などを担当。業務プロセスの整理や、リーガルテックの導入を推進。2021年にSTORESを運営するヘイ株式会社に移り、法務部門の立ち上げに参画、現在に至る。
複数の部門を経験してきた視点を基に、プロダクトの成長に伴走できる新しい法務の姿を目指している。
子どもが生まれてから仕事に起きた変化とは
—————子どもが生まれ、仕事にどのような変化がありましたか?
松尾氏 2022年3月現在フルタイムで働いているものの、子どものお迎え等があるため残業はしない働き方になっています。そのため、「決まった時間で最大限働くぞ!」という意識をもつようになり、自分が優先したいことを整理して、上司に共有するようになりましたね。
石川氏 私の場合、仕事の変化というよりは、子どもと一緒に過ごす中で、仕事において新たな視点を獲得できるようになったと感じています。詳しくはあとでお話ししようと思いますが、それが一番の変化です。
佐藤氏 子育てがあると時間が限られてしまうので、短時間で仕事ができるようになりましたね。また、精神的にも成長して、仕事・家庭・趣味でバランスをとるよう心がけ、ストレスをうまく処理する方法も身につきました。
—————仕事や育児の両立で忙しいと、モチベーションなどが落ちてしまうことがあると思います。そうしたときどのように対処していますか?
石川氏 私は、小さなことで、自己肯定感を高める工夫をしています。最近だと、布団の中で朝活を始め、寝転がりながら学ぶことをしてみました。
あとは、私は結構気合いで乗り切るタイプです。出産を含め、いままで2回大変なときがありましたが、そうしたライフイベントは永遠に続くわけではないので、割り切ることも大事かと思います。
松尾氏 私は結構単純で、食べたいモノを食べる、行きたい場所に行く、などのごほうびを用意していますね。
佐藤氏 私も松尾さんと少し似ていて、自分のご機嫌の取り方を把握して、ご機嫌をとるようにしています。チョコレートが好きなのでおいしいチョコレートを買うとか(笑)
あとは、モチベーションが落ちるときって、たいてい何かいやなことがあったときだと思います。そういうときは、「つらい経験だとしても、自分にとってプラスになるものはないか?」を意識的に探すようにしています。
法務プロフェッショナルとして、どんな存在でありたい?
—————今度は、セッションのタイトルにある、「法務プロフェッショナルの挑戦」の部分をお伺いしたいのですが、お三方は、事業部やクライアントにとって、どんな存在であることを目指していますか?
松尾氏 私は、一緒に進んでいく法務パーソンになりたいと思っています。商社も新しいことをやっていかなければならない時代なので、営業部もさまざまなことに挑戦します。その中で、「法務って、一緒に走ってくれる存在なんだな」と思ってもらえるようになりたいです。
石川氏 私は、「“〇〇レンジャー”がつける、アイテムのようになりたい」と思っています。
最近の戦隊モノの特徴として、戦士自身の能力が目覚めるというパターンよりも、外付けのアイテムをつけて新たな力を手に入れるパターンが多いんですが、弁護士とお客さまの関係に似ていると思っています。
企業が解決したい問題が発生したときに、それを解決する外付けのアイテムとして弁護士がいる、みたいなイメージです。各企業が弁護士の力を必要としたときに、すぐに役に立てるような存在になりたいと思っています。
佐藤氏 私は、「この人に相談したら、一緒に走ってくれる。寄り添ってもらえる」と思ってもらえるようになりたいです。営業部の方がトラブル相談のために法務にきたとき、ものすごく不安を抱えていると思います。そんなときに明るく「大丈夫です!」と鼓舞して安心感を与えられたらと思っています。
事業部やクライアントと関係性を深めるにすべきこと
—————最後に、事業部やクライアントとの関係性を深めるために、どんな工夫をしているかについて、教えてください。
松尾氏 部署間の連携(横の連携)がしやすいよう、業務改善を行っている最中です。大きな会社だと、一つの案件に対して、さまざまな部署がかかわることが多く、同じ質問を違う部署から何度も受ける、部署によって方向性の違う回答が出されるなど、営業部の混乱を招くことがあったりします。こうした事態を改善するために立ち上がったワーキンググループに初期メンバーとして参加しました。
石川氏 さきほどもお話ししたとおり、私は〇〇レンジャーの外付けのアイテムのようなものなので、必要なときに適切なタイミングで使ってもらえるようにしていく必要があります。
そのため、弁護士ができること、弁護士が役立つ場面を定期的に情報発信しています。あとは、顧問契約先には定期的に訪問してコミュニケーションを密にとり、関係性を深めています。
佐藤氏 法務へ相談に来る方のハードルを下げる工夫をしています。
法務への相談は大きく、契約書レビューかトラブルの発生の2つです。後者のように、何かトラブルがあったとき、法務の人間がどんな人か分からないと相談しにくいと思うんです。なので、slackで個人のチャンネルをつくって、自分の人柄が分かるような情報発信をしています。
あとは、相手に興味をもつことも心がけていますね。プロダクトの戦略共有会などに参加して、プロダクトの現状や事業部がこれからやりたいことなどを把握して、積極的にコミュニケーションを図っています。
セッション②「法務最前線で活躍する法務部門長の『頭の中』」のポイント
企業の法務部門を率いる法務部門長。そんな法務部門長たちは、普段どんなことを考えて日々の仕事にあたっているのでしょうか。本セッションでは、2人の女性法務部門長に
- どうすれば法務部門長になれるのか?
- 法務部門長という仕事の難しさ・面白さは?
- いまは数少ない女性の法務部門長を今後増やしていくためには?
といったテーマでお話しいただきました。
スピーカープロフィール
森 貴子 氏
野村ホールディングス株式会社
執行役員
ジェネラル・カウンセル兼コンプライアンス担当/野村證券株式会社 執行役員 法務担当法律事務所勤務の後、2011年野村證券(株)トランザクション・リーガル部入社。2015年ノムラ・ホールディング・アメリカInc.へ出向、2018年、米州リーガルCOOに就任。2019年4月、野村證券(株)取引法務部長に就任。2020年4月、野村ホールディングス(株)執行役員グループ法務担当、野村證券(株)執行役員法務担当に就任。2021年4月、野村ホールディングス(株)執行役員ジェネラル・カウンセル兼コンプライアンス担当に就任。弁護士(日本および米国ニューヨーク州)。
髙林 佐知子 氏
横河電機株式会社
法務部 法務部長1993年に横河電機株式会社に入社。同社で国際法務を中心に企業法務のキャリアを積み、2018年4月から現職。横河電機管弦楽団「アンサンブル横河」コンサートマスター。共著に、企業法務入門テキスト(商事法務 2016年)、新型コロナ危機下の企業法務部門(商事法務 2020年)、今日から法務パーソン(商事法務 2021年)。
法務部門長になる方法とは
—————法務のリーダーを目指す方もいるかと思います。法務部門長には、どうすればなれるのでしょうか?
森氏 私の場合、会社に入って役職を目指したことはありませんでした。任せていただいた仕事に対して、一生懸命取り組むことで信頼を築いてきた結果だと思っています。
ただ、自分のキャリアパスとして、法務部門長を想像していなかったわけではありません。当社には、一つ上の目線で仕事をするカルチャーがあるので、部長になったときには常に部門長の目線で仕事をすることは心がけていました。
髙林氏 目線を上げて仕事をするのは大切ですよね。私も、法務部門長になるという明確な目標をもっていたわけではありませんが、管理職になる前は、「この場合、私だったらこうするのにな…」と思ったことをメモする習慣はありましたので、将来メンバーをリードする側になることを意識してはいました。部長職を目指すかどうかにかかわらず、組織の中で自分が期待される役割を発揮するために、日頃からメンバーにも2階層上の視点を意識しようと話しています。
—————法務部門長という仕事について、難しいと感じるところはありましたか?
森氏 「経営側の視点をもつこと」を求められるので、マインドセットの切り替えが大変でした。また、仕事の幅が広がるため、いままで以上に仕事の優先順位をつけて、いままで自分が担当していた仕事を人に任せるということをしないといけない点も難しく思いました。
髙林氏 仕事内容が切り替わる難しさはありますね。部門長というのは、小さい会社の社長のようなものです。方針を考え、計画を立て、人を育て活用し、組織としてのアウトプットを最大化することが仕事であり、法務の実務をやりたくなる気持ちをグッと抑えていかねばなりません。
部門長になったときは、「管理職は、3割くらいは10~30年先のことを考えてないといけない」と言われました。
管理職となり“実務から離れてしまう不安”との向き合い方
—————法務部門長になるとき、実務から離れることで自分のスキルが停滞してしまうといった不安・怖さはありましたか?
森氏 そういう気持ちがあったとしても、それはそういうものとして素直に認めるべきと思っています。法務といっても、いろいろな分野があります。部門長として大切なのは、そうしたさまざまな分野を任せられる人を育てることです。自分が管理職を務める法務組織全体として、会社に貢献できればよいと考えています。
髙林氏 私は有資格者ではないので、気楽に考えていました(笑)
逆に資格がないことを引け目に思うときはありましたが、メンバーに「あなたがスペシャリストなんだから、お願いね!」と実務を任せ、育てていくことが私の仕事だなと思っています。
—————仕事を任せていくとしても、部下の仕事に口を出してしまいたくなるときがあると思います。そういうときはどうしたらいいでしょうか?
森氏 たしかに、そういうときはありますね。ただ、人は信じて任せられると自発的に頑張り成長していくものです。口を出してしまったら、その人の成長機会を奪ってしまうことになります。なので、「成長を見守ってあげよう」と思うことを心がけたらいいと思います。
髙林氏 私自身も経験がある悩みですが、大枠の進め方や経過報告だけは共有してもらって、「あとは任せる!」という気持ちでいることが大事だと思っています。
法務部門長という仕事のプレッシャーとやりがい
—————法務部門長となると責任が大きいため、プレッシャーも大きいと思います。お二方は、どうやって自分のモチベーションを高めていますか?
森氏 私のモチベーションは、周りの人ですね。すごく大変だと感じる業務でも、自分に任せてもらっている=私への信頼だと考えると、そうした信頼・期待に応えたいという思いがわいてきます。
髙林氏 私も森さんに近いです。“リソースはないけど仕事がくる”ときがたまにありますが、「私が部長の法務部ならできる」と思われているからこそ、任せてもらえたのだと考えます。そう思うと、「頑張ろう!」というモチベーションがわいてきます。
—————法務部門長という仕事の「面白さ」はどういう部分でしょうか?
森氏 「会社にとって最適な法務部門とは何か?」を自分で考え、つくっていけるところがやりがいです。責任も大きいですが、会社全体の戦略やリスクを考え、どういうスキルがある人を育て、組織全体でどういう法務を目指すか決めて実現できるのは非常に楽しいです。
髙林氏 周りの協力を得て、自分が信じている道に進んでいくことができるのは楽しいですよね。あと個人的には、メンバーがぐんぐんと育っていってくれて、「数年前は小さかったのに、こんなに大きくなって…!」といった子育てのような感覚があるところも楽しいですね。
女性が法務部門長というキャリアを描けるようになるために
—————法務は男女差がある仕事ではありませんが、今後、女性の法務部門長が“普通”になっていくためには、どうすべきでしょうか?
森氏 人間は、“想像ができないもの・想像をしていないもの”にはなれません。そのため、多くの女性がキャリアパスを描いたときに、法務部門長という選択肢がキャリアパスの想像の中に入ってくると、もっと増えていくと思います。そのためには、法務部内などで、法務部門長という仕事がどんなものなのか、具体的に言葉にして伝えていくことが大切なのではないでしょうか。
髙林氏 女性で法務をされている方が上を目指したいのであれば、その女性自身が遠慮しないで、そうした意見を伝えていくことが重要です。
出産・育児をする場合、女性には物理的に休まなければならない時期がありますが、だからとってキャリアを諦める必要はないです。40年以上もある長い職業人生で、2~3年休むことは病気等でもあることですし、そんなに大きな問題でありません。
いまいる会社でいったん休んでしまうと管理職になるのが難しいということであれば、転職等も視野に入れ、広く考えみるといいのではないかと思います。
—————女性の昇進について、「純粋に自分の能力が評価されるているのではなく、アファーマティブアクション(積極的格差是正措置)なのでは?」と複雑な心境になる方もおられるようです。こうした気持ちとはどのように折り合いをつければいいでしょうか?
髙林氏 私は、「チャンスはどんどん使っちゃえばいいんじゃない?」と思う派です。チャンスがもらえるなら「ラッキー!」と思ってどんどん利用してアピールして、その中で自分の能力を分かってもらえればそれでいいと思います。
森氏 私もそう思います。
あとは、「自分でアファーマティブアクションでは?」と思い込んでしまっている面があるのかと思います。その場合、これまで自分が頑張ってきたこと・結果を出してきたことなどを思い出して、自分がどれだけ成長したかを再認識して自信をもつことが大事です。任せてもらったということは、あなたならできると思われているということです。前だけ見て進んでいけばいいと思います。
※Legal Women’s Force 2022 のトークセッションのアーカイブ視聴はこちらからお申し込みいただけます。