ESG投資とアクティビストの台頭;日本企業のコーポレート・ガバナンスに与える影響

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Profile

小川 アリシア
コロンビア大学ビジネススクール 日本経済経営研究所 スチュワードシップ・コード及びコーポレート・ガバナンス・コード プログラム プロジェクト ディレクター/株式会社Questhub 社外取締役

コロンビア大学国際公共政策大学院 非常勤准教授コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所にて、日本のコーポレート・ガバナンスに関するプログラムのディレクターを務める。2006年まで、リーマン・ブラザーズにてマネージング・ディレクターとしてグローバル株式市場調査の運営管理を担当。リーマン・ブラザーズ入社前には東京で15年間を過ごし、その間、一流の金融セクター・アナリストとして活躍しながら、日興ソロモン・スミス・バーニーの調査部門ディレクターも務めた。現在は、ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド、みさき投資株式会社、モーリーン&マイク・マンスフィールド財団理事会、株式会社QuestHub及びPure Earthの取締役メンバー、インナーシティの若者を対象にした支援プログラムを提供する非営利団体All Stars Project役員を務める他、International Corporate Governance Network及びEuropean Corporate Governance Instituteの一員でもある。
コロンビア大学バーナード・カレッジ卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院にて修士課程修了、現在非常勤准教授として同大学院にて教鞭を執る。

Sessionのポイント

ESG投資が重視されるようになり、投資家はさまざまな観点から投資先を選ぶようになりました。これまでは「G」(ガバナンス)に焦点をあててきた日本の「アクティビスト(※企業価値を最大化するための提言を投資先企業に行うなど、積極的に経営に関わる投資家のこと)」の活動にも変化が訪れており、日本企業の取締役会には新しいスキルが求められる時代になっています。

本Sessionでは、コロンビア大学ビジネススクールの日本経済経営研究所において日本のコーポレート・ガバナンスに関するプログラムのディレクターを務める小川氏に、

  • 世界と日本におけるアクティビストの動向と変化
  • 日本に訪れる新たなアクティビズム
  • 日本企業の取締役会が獲得すべきスキル

といった内容をお話いただきました。

欧米におけるアクティビストの変化

ESG投資とアクティビストの台頭;日本企業のコーポレート・ガバナンスに与える影響_1

ESG投資においては、「E」(環境面)や「S」(社会面)の問題を抱えた企業が投資のターゲットになるケースが増えています。その影響で、投資先の取締役会の構造や、取締役自身が有している専門知識に新たな焦点があてられるようになりました。これらの事実から考えると、企業は、戦略を考え直し、世界中のステークホルダーに向けて強力かつ直接的に発信する必要性が高まったといえるでしょう。

まずは近年におけるアクティビストファンドの動向を整理します。アクティビストファンドは、2008年の金融危機以降に注目を浴びるようになりました。要因は以下2つです。

①機関投資家が投資先企業に対して、効率的なスチュワードシップを発揮できていないことが明らかになったこと

②「独立取締役は、最高経営責任者(CEO)から事業の実態を知らされないことが多い」という事実が明らかになったこと

上記をふまえ、アクティビストたちが会社の「監督」に乗り出したのです。初期は投資先企業に対し公に敵対的態度をとることが多く、無能なCEOの解任など即効性の高い行動を起こしてきました。しかしESG投資が重視されるようになるにつれて、アクティビストは企業と裏で関わりつつ、目的を遂行することを好むようになりました。株主提案への支持を得る活動にかかるコストや、活動に関する法的リスクが懸念されるようになったためです。

また2021年10月現在、アクティビストは、非金融のパートナー獲得にも注力する傾向があります。時価総額が大きな欧米企業の経営方針に関与するには、パートナー企業の資金力が必須だからです。たとえば、環境や社会に関する課題意識をもつNGOや労働組合との連携が増えています。

アクティビストファンドにとって最も魅力的なターゲットは、業績不振に加え、ESG戦略の効果の無さが重なった企業です。アクティビストが勝利した実例を2つ紹介します。

事例1:エクソン社

新興アクティビストのEngine No.1は、世界最大手のエネルギー企業であるエクソン社に対し4名の取締役候補者を提案し、うち3名が選出されました。Engine No.1は、エクソン社に対し、エクソン社に足りない知見を提供できる候補者を提案し、資本分配・ガバナンスの改善・気候変動に関心のある投資家の支持を広く獲得しました。その結果、小規模の運用資産額にもかかわらず勝利をおさめました。

事例2:ダノン社

ダノン社のCEOは、環境問題や社会問題に対し情熱的な姿勢をもっていることで有名でしたが、投資家の間では、彼の言葉は具体性に欠け、実体がないという見解が広がりつつありました。それに加え、彼のマネジメント能力の低さや、同社の投資家へのリターンの低さに不満をもつ投資家が増え、彼らを説得した小さなヘッジファンドが彼の解任に成功しました。

欧米のアクティビストは進化を遂げています。特に新型コロナウィルスの感染拡大以降は「環境的、社会的問題への注力の強まり」「非金融プレイヤーとの連携」が加速しています。

新たなアクティビズムの波が日本を席巻する

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ここからは日本のアクティビズムについてお話しします。従来の日本におけるアクティビズムは「G(ガバナンス)に焦点をあてていること」「対象の多くが中小企業であること」の2点が特徴でした。日本特有の「全権をもつCEO」や「CEOの支配が強い取締役会の構造」に対する投資家の不満が高かったためです。

実際、日本ではいまだに資本分配の見直しや社外取締役の選任など短期的な変化に対する株主提案が多く、日本のアクティビズムは欧米と比べて5~10年ほど遅れている状況です。

しかし2020年に日本で初めて気候関連の株主提案が行われ、日本のアクティビズムも確実に次のステージに進み始めています。

このような状況下で私が危惧しているのは、日本企業が、他国で展開されているESGアクティビズムの波にのまれてしまうことです。その理由は、ESGを担当する国際機関のメンバーは大半が欧米人で、日本特有の事情(地震、津波など)への理解に乏しいからです。

そのため、日本企業は、世界に向けて自社の経営環境や戦略をもっと積極的にアピールすべきです。日本企業のESGへの取組みは革新的なものばかりですが、世界に対するアピールが不足しています。

また日本企業には、環境問題や社会問題への対応として、SDGsの17のゴールを単純に網羅しようとする動きも見られますが、これは良くありません。なぜなら17のゴールすべてに一企業が集中するのは無理であり、かつゴールどうしが矛盾するケースもあるからです。

現在は、世界中の銘柄を所有する「ユニバーサルオーナー」と呼ばれる巨大投資家が市場を支配しています。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のような年金基金も、ユニバーサルオーナーにあたり、その意味では世界中のだれもがアクティビストです。ユニバーサルオーナーは、日経平均などのインデックスをアウトパフォームするだけでなく、インフレ率を恒久的に上回る必要があります。

しかし、従来のポートフォリオ理論では、災害や金融危機、戦争、所得格差などのリスクを投資によって完全に分散することはできません。そこでESGの課題解決に取り組むことが投資家を守る唯一の方法になるのです。この傾向は今後も激化が予想されるため、日本企業は投資家とのコミュニケーションをより一層重視していくべきです。

日本の取締役会が獲得すべきスキルとは

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以上の動向をふまえ、今後、日本企業の取締役会が獲得していくべきスキルを4つ紹介して結びとします。

①投資家とのコミュニケーションを担当する者に出世の道を与えましょう。彼らは取締役会レベルで活躍すべき人材です。

②投資家とのコミュニケーションを担当する者には、自社の事業領域への知見、経験が豊富な人物を選びましょう。また、彼らが発信する戦略は、きちんと考え抜かれたものか・自社の長期的な課題に答えるものかを吟味しましょう。

③CEOや議長は、投資家とのコミュニケーションを担当する者を、単なるオブザーバーではなく“企業の戦略策定に重要な貢献をしてくれる者”と理解しましょう。取締役会を、CEOが決定した事項にハンコを押すだけの場としてはいけません。優れた企業は、CEOが社外取締役に自由に意見を述べさせることを恐れていません。ユニークな意見や重要なスキルをもたらす社外取締役を受け入れる器をもちましょう。

④CEOは、主要株主からの提案やフィードバックに向きあい、最適な形で活用しましょう。

投資家は会社の敵ではなく、経営陣と同様に会社の成功を願っている存在です。日本企業には、持続可能な企業戦略をリードしてくれることを期待しています。

▼「LegalForce Conference 2021」の様子は、YouTube上でも配信しています。ぜひご覧ください。

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