これからの100年、新しい契約のかたち。法律家が今できること。

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Profile

橘 大地
弁護士ドットコム 取締役 クラウドサイン事業本部長 弁護士

東京大学法科大学院卒業。その後、株式会社サイバーエージェントの社内弁護士を経て、法律事務所勤務弁護士として企業法務を中心に、資金調達支援・ベンチャー企業に対する契約業務のコンサルティング・上場準備支援などに従事。2015年に弁護士ドットコム株式会社に入社。リーガルテック事業である電子契約サービス「クラウドサイン」の事業責任者に就任。そのほか投資先リーガルテック企業支援なども担当。

Sessionのポイント

日本の印章を用いた商慣習は、明治時代以降、さまざまな法律家らの尽力により構築されてきました。一方で、昨今テレワークが普及するなど働き方が多様化し、電子契約のニーズが高まっています。そこで本Sessionでは、クラウドサイン事業本部長で弁護士の橘氏に、

  • 印章文化の歴史
  • 電子署名が普及してこなかった理由
  • 今後100年続く、契約インフラをつくるためにできること

などについてお話しいただきました。

これまでの商慣習をデジタル化すべく、クラウドサインを開発

これからの100年、新しい契約のかたち。法律家が今できること。_1

2020年、コロナ禍において政府は「脱ハンコ」を提唱しましたが、果たしてハンコに代わる契約手段は整備されたといえるでしょうか。私たちはこれからの100年を担う契約インフラをつくりたいと考えています。

クラウドサインは2015年10月にリリースされた電子契約プラットフォームです。従来の紙と押印による契約業務は、当事者が増えるほど契約締結までに時間と手間がかかる仕組みでした。ビジネスにスピードが求められる中で、私たちは「これまでの商慣習、印章文化をデジタル化したい」と考え、クラウドサインを開発しました。

クラウドサインは「ハンコ文化をDXする」電子契約プラットフォームとして、有料契約企業数は30万社超・契約送信件数は500万件超になり、市場認知度ナンバーワンのサービスに成長しました。

背景には、2020年からのコロナウイルスの流行をはじめとする社会環境の変化があります。出社してはならないという状況になり、政府が「脱ハンコ」を推進した結果、商業登記添付書類のやりとりや、行政(官公庁・地方公共団体)との契約などにおいて、クラウドサインが利用可能になるなど、法的インフラが整備されてきました。

日本で電子契約が普及しなかった理由

しかし、ここに至るまでには紆余曲折がありました。日本では、2001年に電子署名法が施行されていたものの、電子契約は普及してきませんでした。なぜなら、電子契約を行うためには、相当の手間とコストがかかったからです

同法によると、A(送信側)とB(受信側)が電子契約を行う場合、ABが事前に、認証局で電子証明書を取得して電子契約を行うよう定めています。

しかし、電子証明書の取得には実印や印鑑証明、住民票などの取得が必要で、さらに当事者AはBに対して電子証明書の取得を要請しないといけないので、「それならわざわざ電子契約にしなくても、従来の紙と印鑑の契約でよいではないか」となってしまいます。

こうした状況を踏まえ、クラウドサインの開発では、同法に準拠しない新たな電子契約の仕組みを考える必要がありました。いろいろ考えた結果、クラウドサインでは、契約書の受信者は事前手続やコストが不要で、メールアドレスだけあれば契約書が届き電子契約サービス事業者である弁護士ドットコムが電子署名を代行する仕組み(=事業者署名型(立会人型))をつくりリリースしました。

これからの100年、新しい契約のかたち。法律家が今できること。_2

電子署名・クラウドサイン普及までの道のり

クラウドサインは電子署名法に準拠していないため、当然ながらリリース当時は法務省による商業登記の審査対象になりませんでした。また、派遣契約書や不動産の重要事項説明書、労働条件通知書など、クラウドサインで利用できない類型があるなどの問題もありました(ちなみにこれらは2021年現在、法改正や法解釈の変更などにより解決しています)。

そこで、私たちは電子契約の普及活動につとめることにしました。スタートアップ業界を支援し、さまざまなベンチャーキャピタリストからクラウドサインを使おうとの声明をもらいました。

また、不動産業界では電子契約に関する実証実験を3年間実施し、電子契約を可能にする法改正の施行(2022年)までこぎつけることができました。

企業法務の領域では「契約書タイムバトル」などの法務担当者向けイベントを主催し、法務担当者にクラウドサインの認知度を高める取り組みを行いました。そのほか、法務雑誌への寄稿、弁護士会主催による電子契約研究会での登壇や研究発表なども行いました。

さらに、裁判所向けには、実際に訴訟になった際にクラウドサインで交わされた契約が証拠能力を備えるために必要な書面を、元裁判官と共同開発しました。

そして、ロビイング活動も進め、2018年にはグレーゾーン解消制度の活用、2020年5月には政府の規制改革推進会議に出席し、電子署名法の解釈変更の必要性を訴えました。

私たちは、諸外国同様、電磁的に作成される署名・文書にも広く法的効力を認めていくことが、デジタルファーストの加速に資するものだと陳情を行いました。

「押印が主、電子署名は従」という潮流に変化

署名押印に関わる条項として代表的なものが、民事訴訟法に定められた「二段の推定」です。これは、ある契約を巡って紛争が起きた場合、「契約書に押印さえあれば真正に成立したものと推定する」と定められているものです。

一方、電子署名法では、本人による電子署名に「必要な符号」「物件を適正に管理」など、署名の真正性のためにさまざまな制約が設けられています。

電子署名にだけさまざまな制約があるのは、「押印が主、電子署名は従」という法慣習があるためです。

しかし、こうした流れは2020年に入ってから変わりはじめました。2020年5月には会社法の法解釈が変わり、取締役会議事録もクラウド型の電子署名で行うことが可能になりました。同年6月には商業登記添付書類にクラウドサインが利用可能になり、同年7月には電子署名法の法解釈が変更されました。

また、地方自治法も改正され、クラウドサインが行政(官公庁・地方公共団体)との契約等でも利用可能になりました。

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今後100年続く契約インフラをつくるために

ここでみなさんに「法律が時代にそぐわなかった場合、あなたはどう判断しますか?」ということを問いたいです。法律は時代に後追いで成立するため、私たちは常に、「法律が間違っている可能性がある」という事実を頭に入れておく必要がありますみなさんのビジネスのポリシーや理念、倫理観や目的意識が問われる時代になっているのです。

日本にハンコが輸入されたのは西暦57年、漢委奴国王印(かんのわのなのこくおういん)だといわれます。市民間で流通したのは江戸時代に入ってからで、明治に入ると印章制度が整備されました。

それから約150年が経とうとしています。多くの役所や官僚、法律家によって印章制度は法律的な地位を獲得し広く普及しました。他方、電子契約は2015年にスタートしたばかりで、法的インフラは2020年に整備されたばかりです。

私はこれから100年続く契約インフラを、みなさんと一緒につくっていきたいと思っています。業務フローを確立し、規程を整備していくのは全国の法律家、法務担当者との共同作業になります。

クラウドサインも進化を続けています。たとえば、契約管理に関しては、所属や書類の種別に応じた適切なアクセスコントロールを実現するキャビネット機能をリリースしました。

また、決裁に関しては、電子契約の送信者が承認の順番を設定する承認ワークフロー機能を、そして本格的な電子署名法への準拠に向け、実印に代わりマイナンバーカードを活用した当事者署名型電子署名の実現に向けて動いているところです。

これからの契約インフラをつくるため、今後もみなさんの協力をいただけるとありがたいです。

▼「LegalForce Conference 2021」の様子は、YouTube上でも配信しています。ぜひご覧ください。

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